11月22日、岡山で『精神』の関係者向け試写会を行った。映画に登場してくれた患者さん、医師、スタッフ、ボランティアの方々に初めて作品を見せる会だったので、どんな反応が出るのか、正直言って、試写会をやろうと決めたその日から、いや、カメラを回し始めてからずっと不安だった。というよりも、恐怖を感じた。
特に今回は、普通ならモザイクがかけられてしまう精神科の患者さんが、大勢素顔で登場している。普段から自殺願望を抱えている人も少なくなく、映画を公開することで何が起こるか分からない、最悪の事態になったらどうしよう、というのが僕の偽らざる心境だった。
でも、もっと不安だったのは被写体の人々、特に病を抱える当事者の方々だったと思う。自分が出た映画を観たい、いや、どんな風に撮られてるのか不安だから観たくない、そういう揺れ動く心をみんなが経験したと聞いた。実際、「絶対行かない」と公言していた人が直前になって観ようと決意し、会場に来てくれたケースもあれば、その逆もあった。
診療所の患者さんと仕事をする義母は、そうなることを予め見越し「みんなの命を守らにゃいけん」と、試写会前後の支援体勢について色々な手配をしてくれた。診療所のスタッフの方々も、試写会に向けて万全の環境を整えてくれた。
それでも、当日が僕にとって一種のクライシス、危機的状況になるであろうことは、容易に想像できた。詳しいことは後で本にする予定だし、ここには書かないが、実際、これまでの人生でも最大級の修羅場になった。質疑応答の際に、とある患者さんに激しく問い詰められたときは、心底、気が動転したし、その場に立っているのがやっとだった。でも、僕は気を取り直して自分の考えや気持ちを正直に伝えた。他の参加者もそれぞれの意見や感想を述べた。そして、議論するうちに最後にはお互い分かり合えた気がするし、僕を問い詰めた患者さんの表情や言葉も明るくなった。一種のカタルシス。雨降って、地固まった。全身の力が抜けた。
23日には山本先生への3時間に渡るロング・インタビュー、映画に登場してくれた当事者5人の座談会、義母と義父へのインタビューを行った。先に触れた関連書籍に盛り込むためである。
映画を撮ってる最中にも、山本先生にはいろいろ聞きたいことがあったのだが、当事者中心の映画にしたかったから、敢えて聞かずにいた。それがやっと実現できて、いろんな発見もあって、嬉しかった。山本先生は、やっぱり偉大な人だと思う。
当事者の座談会は、試写会後の質疑応答とはうって変わって、和やかな雰囲気で進められた。前の日に僕を厳しく追及した患者さんも、時には泣きながら、時には笑いながら、自分の心境や境遇を改めて語ってくれた。僕は心からホッとした。この映画を撮って良かったと、改めて思った。
NEWS
Latest documentary "Oyster Factory" has been officially invited to Locarno International Film Festival 2015! 最新作『牡蠣工場』がロカルノ国際映画祭へ正式招待されました!
Wednesday, November 26, 2008
映画美学校で講座
12月2日(火)、映画美学校の公開講座「ノンフィクション講座」にゲスト講師として呼ばれています。僕がニューヨークのSVAという美大の映画学科で作った初期の劇映画や、テレビ用のドキュメンタリー作品等を上映しながら、観察映画に取り組むに至った動機や道筋などについて語ります。講座の主である代島治彦氏との対話の形で進行していきます。
一般にも公開されている講座ですので、ぜひご参加を!!!
http://www.eigabigakkou.com/public/index18.html
一般にも公開されている講座ですので、ぜひご参加を!!!
http://www.eigabigakkou.com/public/index18.html
Tuesday, November 18, 2008
ロボット演劇『働く私』
大阪で平田オリザ氏の新作『働く私』の稽古を撮って、いま新幹線で帰京しているところです(イーモバイルっつーのを勧められて買ったんだけど、新幹線でもパソコンをネットにつなげてスゲー便利。トンネルではさすがに切れちゃうんだけどね)。
『働く私』は、なんとロボット2体と人間の俳優2人がお芝居をするという、世界初の試み。ロボットは三菱重工製のWakamaruというモデルなんだけど、動きや声の抑揚が細かくプログラミングできるので、平田さんの台詞を役者さんと一緒に「演じる」と、ホント、生きてるみたいだった。
http://fringe.jp/topics/2008/10/261.html
『働く私』は、なんとロボット2体と人間の俳優2人がお芝居をするという、世界初の試み。ロボットは三菱重工製のWakamaruというモデルなんだけど、動きや声の抑揚が細かくプログラミングできるので、平田さんの台詞を役者さんと一緒に「演じる」と、ホント、生きてるみたいだった。
http://fringe.jp/topics/2008/10/261.html
Tuesday, November 11, 2008
青年団の撮影、再び
昨日から青年団の撮影を再開した。昨日は、夏から稽古している『冒険王』の仕込み。アゴラ劇場が工事中で、もの凄い騒音の中、搬入やセット・会場作りが行われた。
今回の滞在では、『冒険王』の他、新作『サンタクロース会議』や、世界初のロボットを使った演劇『働く私』の舞台裏と本番を撮影させてもらう予定。
早目に終わったので、筑紫哲也さんの2時間追悼番組に間に合った。前日に見つかった筑紫さんの日記「残日録」を軸にした、凄い番組だった。見終わった後で、番組が出来る過程を後でご家族から聞いて、奇跡的に出来た番組だったんだなあと胸が震えた。改めて、惜しい人に逝かれてしまいました…。
今回の滞在では、『冒険王』の他、新作『サンタクロース会議』や、世界初のロボットを使った演劇『働く私』の舞台裏と本番を撮影させてもらう予定。
早目に終わったので、筑紫哲也さんの2時間追悼番組に間に合った。前日に見つかった筑紫さんの日記「残日録」を軸にした、凄い番組だった。見終わった後で、番組が出来る過程を後でご家族から聞いて、奇跡的に出来た番組だったんだなあと胸が震えた。改めて、惜しい人に逝かれてしまいました…。
Friday, November 07, 2008
筑紫哲也さん
7日の朝、筑紫哲也さんが亡くなった。
ショックで呆然とするしかない。
東大新聞に籍を置き、ジャーナリストを目指していた頃から、
尊敬し憧れていた。
僕にとってのヒーローだった。
いつかいい仕事をして、番組にゲストとして呼んでもらうんだと、
密かに自分の目標というか、夢にしていた。
もちろん、おこがましくてそんなことはこれまで誰にも言ったことはない。
ところが『選挙』がベルリン映画祭で公開されたとき、
ニュース23で取り上げてもらえた。
あのときは本当に驚いたし、ただならぬ感慨を憶えた。
スタジオには呼んでもらえなかったけど、
人生の新しい章が開いたような気がした。
結局、一度もお目にかかれなかった。
この喪失は大き過ぎる。
僕にとっても、日本にとっても。
明日東京へ向かうので、お別れを言いに行きたいです。
ショックで呆然とするしかない。
東大新聞に籍を置き、ジャーナリストを目指していた頃から、
尊敬し憧れていた。
僕にとってのヒーローだった。
いつかいい仕事をして、番組にゲストとして呼んでもらうんだと、
密かに自分の目標というか、夢にしていた。
もちろん、おこがましくてそんなことはこれまで誰にも言ったことはない。
ところが『選挙』がベルリン映画祭で公開されたとき、
ニュース23で取り上げてもらえた。
あのときは本当に驚いたし、ただならぬ感慨を憶えた。
スタジオには呼んでもらえなかったけど、
人生の新しい章が開いたような気がした。
結局、一度もお目にかかれなかった。
この喪失は大き過ぎる。
僕にとっても、日本にとっても。
明日東京へ向かうので、お別れを言いに行きたいです。
Wednesday, November 05, 2008
Obama Wins
歓喜というよりも、ホッとしました。マケインが勝ったら、本気でアメリカを引き揚げるつもりだったし。それにしても、8年間のダメージは大きかった…。二つの泥沼戦争、未曾有の経済危機、貧富の差の拡大、恐るべき赤字財政…。
アメリカ人、はっきり言って気付くの遅過ぎる。しかし、永遠に気付かないよりはずっといい。乾杯。
アメリカ人、はっきり言って気付くの遅過ぎる。しかし、永遠に気付かないよりはずっといい。乾杯。
Tuesday, November 04, 2008
台湾にて In Taiwan
11月2日から、台湾国際ドキュメンタリー映画祭に出席するため、台湾第3の都市・台中に来ている。摂氏27度!未だにここは夏である。
3日の朝、さっそく他の審査員との顔合わせ。インターナショナル・長編映画コンペティション部門の審査員は僕を含め3人。映画監督のミカエル・ヴェッター氏(65歳のメキシコ在住オーストリア人)、映画監督で台湾国家文化芸術基金所長の黄明川氏(52歳の台湾人)、そして僕(38歳)である。3つの世代が集まったねえ〜と言いながら、朝食ミーティング。
14カ国から集まった15本の作品を4日間で観て、グランプリ1本と次席2本を選ぶ。この前のPBSの番組審査委員会でも思ったけど、他人の作品を審査するというのは、本当に難しい。映画を観た直後にちょっと話しただけでも、他の審査員とは意見が割れる。
結局は、映画を作った人の主観と、選ぶ側の主観が入り乱れ、火花を散らしてぶつかり、共倒れになった落ちどころで順位が決まるような感じ。いずれにせよ、好き嫌いが影響する極めて主観的な作業であり、絶対に科学的ではない。しかし、どの映画を選ぶかで、その映画の運命を左右してしまうようなこともあるから、いい加減には決められない。
その一方で、3日には『精神』の上映があった。釜山での受賞がニュースとして流れていたせいか、上映前から長い行列ができ、場内は満員。
http://www.tidf.org.tw/2008/ch/news_detail.php?&uid=28
上映後もお客さんのほとんどが残ってくれ、白熱した質疑応答が展開された。出された質問は、「あのような診療所は日本では典型的なのか?」「どうやって撮影許可を得たのか?」「被写体にあれほど心を開いてもらえた秘訣は?」「音楽を使わない理由は?」などなど。
観客の主流は、20代らしき若者。とくに女性が多い印象を受けた。質疑応答が時間切れで打ち切られた後も、ロビーでお客さんに取り囲まれ、美術館の閉館で追い出されるまで延々と議論を続けた。『選挙』の上映ときは、ガハハと笑ってハイ解散、という感じが多かったけれど、『精神』はいつまでも議論が尽きない傾向にある気がした。それは正に僕の望むところであるから、時間が許す限りとことん語り合おうと思う。
http://www.tidf.org.tw/2008/ch/news_detail.php?&uid=45
4日には、SVA映画学科時代の盟友で今は台湾に帰っている撮影監督のルーク・チェンとその家族が、僕に会いにわざわざ台北から来てくれた。ルークは僕が学生時代に撮った作品のほとんどで撮影監督(カメラマン)をやってくれた、いわば同じ釜の飯を食った仲である。もうすぐ2歳になる娘さんに初めて会った。ルークは「俺、コイツが幸せなら何がどうなっても全然かまわない」とか言って、娘にメロメロ…。あのルークがねえ、と、彼の髭に白髪が交じっているのをマジマジと見つめながら、深い感慨に包まれた。なんにせよ、親子三人でホントに幸せそうで、心から良かったなあと、僕は感動せずにはおられなかったのである。
Saturday, November 01, 2008
Taiwan Int, Documentary Film Festival
So, I'm heading to Taiwan International Documentary Festival (Oct 31 - Nov 9, 2008). MENTAL will be screened twice, and I'll be at the Q&A session each time. I'll be a jury member for the competition section as well. I'm looking forward to seeing Luke Chen, my pal and DP from film school in NY.
http://www.tidf.org.tw/2008/en/programone.php?&uid=102&fcid=7
Asian Network of Documentary Section
Screening dates: Nov 3 at 19:30 and Nov 5 at 18:30
明日から台湾へ行きます。台湾国際ドキュメンタリー映画祭に出席するためです。『精神』の上映は2回あり、質疑応答もあります。
11月3日(19時半)および11月5日(18時半)。僕はコンペ部門の審査員も務めます。NYの映画学校で一緒だった、相棒で撮影監督のルーク・チェンに久々に会えるのが楽しみです。
http://www.tidf.org.tw/2008/en/programone.php?&uid=102&fcid=7
http://www.tidf.org.tw/2008/en/programone.php?&uid=102&fcid=7
Asian Network of Documentary Section
Screening dates: Nov 3 at 19:30 and Nov 5 at 18:30
明日から台湾へ行きます。台湾国際ドキュメンタリー映画祭に出席するためです。『精神』の上映は2回あり、質疑応答もあります。
11月3日(19時半)および11月5日(18時半)。僕はコンペ部門の審査員も務めます。NYの映画学校で一緒だった、相棒で撮影監督のルーク・チェンに久々に会えるのが楽しみです。
http://www.tidf.org.tw/2008/en/programone.php?&uid=102&fcid=7
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