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Friday, July 23, 2010

『PEACE』について


2009年の夏、韓国の国境線の街・パジュで開かれる「非武装地帯ドキュメンタリー映画祭」から、「平和と共存をテーマに20分程度の短編ドキュメンタリーを作って欲しい」と依頼された。正直言って、気が進まなかった。

というのも、まず、僕が実践するドキュメンタリーの方法論・スタイルである「観察映画」では、先にテーマを設定しないのが原則だからだ。テーマを先に設定すると、目の前の現実をよく観てそこから学ぶことよりも、テーマ性を優先し、それに合わせて現実を切り取ってしまいやすい。だから、テーマというものは、撮影や編集を通して現実をよく観て、その過程で後から発見していくものでなくてはならない。そう、信じていた。

また、平和と共存という、あまりにも巨大で、しかも“正し過ぎてちょっとクサい”テーマにも本能的にひるむところがあった。「だれにとっても、平和と共存が理想なのは当たり前だ。そんな“ごもっとも”な映画を撮って何になるのか?」という気持ちもあった。

だから、せっかくいただいたお話だけれど、お断りするつもりだった。

ところが、同年の秋、妻の実家がある岡山に夫婦で帰った際、妻の父・柏木寿夫が地域の猫にエサをやっている様子を日常の記録のつもりでビデオカメラに収めているうちに、気が変わった。ちょうど、外部から来た「泥棒猫」のために、平和だった猫の共同体が揺れ動いていたところに居合わせ、「猫社会にもいろいろあるんだなあ、人間と同じだなあ」と発見したからだ。猫の共存をめぐる話で短編が作れると直観し、映画祭からのオファーを引き受けることにした。

そして、猫と義父の関係を撮っていくうちに、彼が行っている高齢者や障害者に安価な足を提供する「有償福祉運送」の仕事やその利用者にも興味が飛び火し、気がついたら、自らの死を見つめる橋本至郎氏に義父を通じて知り合い、彼の自宅での生活を支援する義母・柏木廣子の仕事などにもカメラを向けていた。そうこうするうちに、20分の短編であるはずだった映画は、75分の長編映画になってしまった。

撮影の際に、自らに言い聞かせ続けたことがある。

「平和と共存というテーマは出発点にしか過ぎない。それに縛られることなく、映画的な旅や冒険をいかに展開するかが勝負だ」

だから、テーマと関係なさそうなことでも、自分の興味の趣くままにカメラを回すようにした。橋本氏の場面などはその典型で、もしテーマ主義で作っていたら、カメラを向けていなかったと思う。

また、これまでの観察映画同様、事前のリサーチや打ち合わせをせず、行き当たりばったりでカメラを回した。編集でも、テーマはできるだけ無視して、自分の興味の惹かれるシーンを積み重ねていくことで何が見え、何が発見できるか、ということを大事にした。そういう意味では、観察映画の手法は本作でも貫けたように思う。

しかし、不思議なもので、頭から追いやっていたはずのテーマも、知らぬ間に作り手の意識にジワジワと影響を与えるものである。結果的には、平和とは何か、共存とは何か、それらが成立するための条件とは何か、そしてそれらを壊すものは何か、などと自問しながら映画を作ったような気がするし、それらの問いを観客に投げかける映画になったと思う。また、橋本氏の戦争体験に出くわしたことにより、日本の「戦後」を問い直す映画にもなったのではないか。

なお、橋本氏が愛用する「ピース」という名のタバコは、1946年1月、敗戦直後の日本で、平和に期待を込めて発売された銘柄である。

想田和弘

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