NYのフィルム・フォーラムで『人間の條件(第三部)』(小林正樹監督)のプレス用試写会に誘われたので、カミさんと二人で参上した。仲代特集の一環である。
『人間の條件』(1959−61)は、日本軍の中国大陸への侵略戦争を描いた超大作で、三部合わせて10時間近い。第三部だけでも3時間半ある。
全く未見だった僕は、一部と二部を観ずに三部を観ることにためらいを感じながらも、再び仲代さんが来られると聞いて出掛けていったのだが、これが大、大、大傑作。茫然自失した。上映時間の長さなど、全く気にならない。10時間一気に観るのも苦にならないだろうと思った。
こんな映画はもう二度と、世界中の誰にも作れないのではないか。日本映画の黄金時代に、小林正樹がいて、仲代達矢がいて、あらゆる好条件が重なって、初めて可能になった奇跡だと思う。前の日に観た仲代主演の『他人の顔』(勅使河原宏監督)も凄かったし、僕は最近、映画の神様に抱擁されっぱなしである。
しかも今日の試写では、僕とカミさんが並んで座っていたら、「ここ、いいですか?」とカミさんの隣に座ってこられたのが、なんと仲代さんご本人!仲代さんも20年ぶりにご覧になったそうだ。
映画にはインターミッションがあったのだが、映画に入り込みすぎて僕らはしばらく声もあげられなかったし、拍手もできなかった。仲代さんはそれを気にしたのか、「長い映画でしょう」とおっしゃったので、僕らは「いえいえ、全然長いなんて感じません。素晴らしい映画です。こんな映画はもう誰にも撮れないでしょう」と慌てて打ち消した。世界のナカダイも、観客の反応は気になるんだなあと、不思議な親近感を感じた瞬間だった。
それにしても、恐るべきは仲代達矢の演技力と集中力である。3時間半の長編の中、一度として、仲代達矢が「演じている」ことを意識しなかった。仲代達矢は、主人公の「梶」にしかみえなかった。僕は映画を観ている事をいつの間にか忘れ、あたかも自分が戦争を体験しているかのように引き込まれた。ちなみに、『人間の條件』の壮絶なラストを撮る時、小林監督は仲代さんに3日間の絶食と不眠を要求し、仲代さんはそれを実行したそうである。
仲代さんは『人間の條件』を撮る合間に、黒澤の『用心棒』と『椿三十郎』に出たという。日本映画の黄金時代は、掛け値無しの黄金色だった。
仲代達矢さんと偶然!凄い!どのような方なのか想像も出来ません。監督が「世界の仲代達矢」さんを撮る日があるかもしれませんね。『人間の條件』はDVDを買いましたが全作通してすばらしいと思います。特に第二部が良いかと。
ReplyDeleteおしょさん
ReplyDelete仲代さんは非常に温和でソフトで控え目な方でした。大学の恩師と話し方や表情がそっくりなので、すぐに親近感を感じました。輝かしい経歴と実力にあぐらをかかない姿は、心から尊敬できると思いました。