Sunday, May 31, 2009

映画『選挙』から予感したこと

またもや、改革派候補の勝利である。

この前の和光市市長選挙でも、僕の地元・足利市の市長選挙でも、改革派の候補が保守派による伝統的な組織選挙を破って当選した。

僕はここに、自民党が単に一時的に不人気であるということにとどまらない、地殻変動の兆しを感じている。

拙作『選挙』では、2005年に行われた、自民党による組織選挙の舞台裏を描いた。本作を作って分かったことだが、組織選挙の基盤は伝統的な地域社会であり、その崩壊とともに、組織選挙は効力を失わざるをえない。

当時もその兆候は見受けられたし、作品に色濃く反映された。最近の改革派による勝利続きは、僕の仮説の正しさを裏付けるものだと思う。

『選挙』の復活ロードショーは、7月4日から渋谷のライズXで。
http://www.laboratoryx.us/campaignjp

阿久根市「ブログ市長」が再選
http://mainichi.jp/select/today/news/20090601k0000m010074000c.html?link_id=RTH03

 2度にわたる市長不信任案可決に伴う鹿児島県阿久根市の出直し市長選が31日投開票され、ブログなどで議会や市職員を批判し「ブログ市長」と呼ばれた前市長の竹原信一氏(50)が、反竹原派の市議らが擁立した新人で元国土交通省職員の田中勇一氏(56)を破り、再選を果たした。1日の選管告示で市長に復帰する。2期目も議会攻撃などを続けるとみられ、市の混乱は今後も続きそうだ。
 竹原氏は選挙中も「仕事内容に見合わず、市民に比べて給与が高過ぎる」と市職員を批判し、争点化を図った。人件費を削減し給食費を無料化するなどと訴えた。過激な言動には批判もあったが、改革が遅れがちな議会や市職員への不満を幅広く取り込む形になった。
 これに対し、田中氏は「ビジョンなき改革は、破壊に過ぎない」と竹原氏の市政運営を批判。混乱が続く市政の正常化を訴えたが、出馬表明が今年4月と出遅れたこともあり、浸透できなかった。
 選挙中「市民が議会と市役所を監視できる環境を整備する」などと訴えた竹原氏に、反竹原市議らは反発を一層強めていた。議会は反竹原派の市議が過半数を占めており、今後も市長と議会の衝突が予想される。
 投票率は82.59%で、前回を7.09ポイント上回った。当日有権者数は1万9876人だった。【福岡静哉】

 確定得票数次の通り。

当8449 竹原 信一=無前<2>

 7887 田中 勇一=無新

 ◇「大変なことになった」肩落とす市職員

 再選を決めた竹原前市長は午後9時半すぎ、事務所で支持者と万歳三唱。記者団に2期目の抱負を聞かれると、笑顔は消え「市長という職が続くだけ。特別な感慨はない。責任者はあくまで市民の皆さん」と、淡々と語った。市職員に対しては「自治労は阿久根から出ていってもらう」と容赦なく攻撃した。
 50代の男性市職員は「大変なことになった。やりたい放題の独裁になってしまう。市政に具体的な弊害が出てからしか、有権者は選択の誤りに気づかないだろう」。(毎日新聞)

Saturday, May 30, 2009

湯浅誠さんからのコメント

最近いただいたコメント第11弾は、「NPO法人自立生活サポートセンター・もやい」事務局長の湯浅誠さんです。派遣村や反貧困の活動で知られる湯浅さんですが、実は10年以上前に、一度共通の友人と一緒にお茶をしたことがあります。

ーーー

「観察」だけの「精神」が私たちにめまいを惹き起こすのは、監督がそのめまいを生き抜いたからに他ならない。相手の“カーテン”を揺らすことは、自分の“カーテン”を揺らすことだ。はいカット!
ー 湯浅誠(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい・事務局長)

Friday, May 29, 2009

読売「ヘザーの映画館」に記事掲載

読売新聞の電子版「ヘザーの映画館」に僕のインタビュー記事が載りました。

このコーナー、個人的に大好きで、『選挙』も公開時に取り上げていただいたんですが、残念ながら今回が最終回だそうです。

ヘザーさん、長い間お疲れ様でした!

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/heather/h_review/20090529et0b.htm

ヘザーさんによる『選挙』のインタビュー記事はこちら。

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/heather/h_review/20070525et14.htm

拙著、アマゾンで予約開始!


拙著『精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける』(中央法規出版)がアマゾンで予約開始いたしました。発売は6月中旬になりそうです。

http://www.amazon.co.jp/精神病とモザイク-タブーの世界にカメラを向ける-シリーズCura-想田和弘/dp/480583014X

Thursday, May 28, 2009

医学生等の大幅団体割引

6/13(土)から映画『精神』が公開されますが、東京・渋谷にあるシアター・イメージフォーラムでは、医学・薬学・看護・介護などが専門の学生10名以上1グループでご来場の場合、お1人様500円でご覧になることができます。

詳しくは、劇場(03-5766-0114)まで。

ご来場の際には、学生証を提示して下さい。 昼でも、夜でも、曜日にも関係ありません。 ぜひ、知人・友人をお誘いのうえ、ご来場ください。

Wednesday, May 27, 2009

自殺の法則

1日平均の自殺者の数が、100人を超えたというニュースを読んだ。映画『精神』を撮る過程でお会いした患者さんの大半が、自殺願望を抱いておられた。以下は、自殺について、以前書いた文章ですが、再掲します。

ーーー

僕もときどき自らの死について考えるんですが、僕らは何に絶望して自殺を考えるのか?と問う過程で、ひとつの法則を発見をしました。

まず、どんなに辛い過去があっても、人は死にたいと思いません。なぜなら、今現在が幸福なら、いくら過去が悲惨でも、死にたいとは思わないからです。

次に、今現在がどんなに辛くても、人は死にたいと思いません。なぜなら、その辛さがあと1秒後に終わると分かっていたら、たぶん我慢すると思うからです。

ということは、僕らが死にたくなるのは、「この辛さがずっと続くのではないか」と思うから、つまり未来に対して絶望するから死にたくなるのです。

しかし、未来というのはまだ起きていません。ある意味、フィクションです。僕らは、フィクションにおびえて死にたくなるのだとも言えます。

1日平均の自殺者 初の100人超

 4月の自殺者は昨年同月比6.1%増の3027人で、2カ月連続で3000人を超えたことが27日、警察庁のまとめ(速報値)で分かった。1カ月に3000人以上自殺したのは、昨年は10月だけだったが、今年は早くも上回った。
 1日平均の自殺者は100.9人で、月別の統計を取り始めた昨年1月以降初めて100人を超えた。同年12月の約81人から5カ月連続で増えており、歯止めが掛かっていない。
 1〜4月の累計は1万1236人。11年連続で3万人を超えた昨年同期より493人(4.6%)増えており、今年も3万人を上回る勢いだ。
 4月の自殺者のうち男性は昨年同期比6.5%増の2156人、女性は4.9%増の871人。(時事通信)

Monday, May 25, 2009

DIRECTOR'S MAGAZINEに記事掲載

映像の業界誌「DIRECTOR'S MAGAZINE」(6・7月号)に4ページにわたるインタビュー記事が載りました。書店でお求めになれます。

Saturday, May 23, 2009

『精神』各地の公開日程(経過報告)

映画『精神』の東京封切り(6月13日)まであとわずか!

全国各地の劇場での公開日程も、だんだん決まってまいりました。
★のついた場所は、前売り券もあります。前売り券を劇場でお求めの方には、特製ノートをプレゼント。

今後、上映館はどんどん増える予定です。
新しい情報は、下のリンクにアップデートしていきますので、ときどきチェック・バックのほど、よろしくお願い致します。
http://www.laboratoryx.us/mentaljp/theater.php

北海道 札幌シアターキノ 6月27日(土)〜7月3日(金)
北海道 苫小牧シネマ・トーラス 7月中旬
東京 シアター・イメージフォーラム ★ 6月13日(土)〜
愛知 名古屋シネマテーク 夏
岐阜 大垣コロナシネマワールド 夏
石川 金沢シネモンド 6月20日(土)〜7月10日(金)
大阪 第七藝術劇場 ★  7月18日(土)〜
京都 京都シネマ ★ 7月下旬
兵庫 神戸アートビレッジセンター ★ 8月15日(土)〜
岡山 シネマ・クレール ★ 7月18日(土)〜
広島 横川シネマ 夏
福岡 シネテリエ天神 ★ 7月4日(土)〜
沖縄 桜坂劇場 夏

福島瑞穂さんからのコメント

最近いただいたコメント第10弾は、参議院議員で社民党党首の福島瑞穂さんです。
福島さん、ありがとうございました。

ーーー

人間存在そのもの、人が生きていくことそのものを描き出している。
ー 福島みずほ(参議院議員)

Thursday, May 21, 2009

森達也さんからのコメント

最近いただいたコメント第9弾は、映画監督で作家の森達也さんです。

森さんの、オウム真理教を通して日本社会を活写した「A」を初めて観たときの衝撃は、今でも忘れられません。

ーーー

進化するメディアを媒介にして二分化が進む。
そのひとつが精神の正常と異常。
その二分がいかに空しいものであるかを、この作品は教えてくれる。
狭間がいかに豊かであるか、そしてその狭間こそが僕らが生きている領域であることを、しっかりと呈示してくれる。
想田に言いたい。ありがとう。
あなたはまた、世界をひとつ広げてくれた。
ー 森達也(映画監督・作家)

CDジャーナルに記事掲載



5月20日発売のCDジャーナル6月号に、僕のインタビュー記事が載ったようです。良かったらチェックしてみてくださいませ!

http://www.cdjournal.com/Company/products/cdjournal.php?yyyy=2009&no=06

Wednesday, May 20, 2009

裁判員制度を危惧する

今日から裁判員制度がスタートする。裁判に一般人が関わるというコンセプトはいいのだが、実際の制度には危惧する点が多い。

僕が最も問題だと思うのは、公判前整理手続というプロセス。詳しくは最高裁判所のサイトに載っているが、要するに裁判を数日間で終わらせるため、裁判員による審理が始まる前に、争点や証拠の整理をしていくというものである。

例えば、以前は「たくさんの証拠が取り調べられていた」のに、裁判員制度では必要な証拠を予め公判前整理手続きで吟味するので「争点の判断に必要不可欠な証拠に絞って取調べが行われる」という。

また、以前は「事件で真に争いとなっている争点のほかに、事件に至る経緯や事件後の状況等の事実関係についても広く審理の対象とされる」ことがあったが、裁判員制度では予め公判前整理手続きで争点を絞るので、「メリハリのある審理」を行えるのだという。

最高裁判所は、これらの特徴を胸を張って宣伝しているのだが、僕には恐ろしい改悪にしか思えない。

そもそも、たくさんの証拠を取り調べていたのは、様々な角度から事件を検討する必要があるからなのではないか?それに、何が争点であるのか、公判前に誰かがお膳立てするというのは、出来レースを用意することと等しいのではないか?

これは、僕が日頃から批判している、シナリオを事前に書く予定調和なドキュメンタリー作りとよく似ている。

この愚かな制度を考えついた人間は、下手をすれば一般人を何か月も何年も拘束しかねない裁判員制度は国民の支持を得られないと思ったのであろう。そこで、どんな裁判も数日間で終わるよう、審理をスピード化する手段として公判前整理手続きを設けたに違いない。

しかし、そんな拙速の裁判で濡れ衣を着せられ、殺されてしまってはたまらない。裁判には必要なだけ時間をかけるべきである。

下村健一さんからのコメント

最近いただいたコメント第8弾は、気骨あるレポートで定評ある、ジャーナリストの下村健一さんです。
下村さん、ありがとうございました。

ーーー

TV報道には出来ないこと、観察映画だから出来ること。
その役割 分担の、大成功作!
ー 下村健一(TVキャスター)

ロゼッタストーンに『精神』の記事

ロゼッタストーンのサイトに『精神』の記事が掲載されました。

http://www.rosetta.jp/london/index.html

Tuesday, May 19, 2009

Articles on Peabody Awards



Here are some articles on our acceptance of Peabody Awards (in English).

TV Week:
http://www.tvweek.com/news/2009/05/pbs_pov.php

Japan Today:
http://www.japantoday.com/category/entertainment/view/sodas-tv-documentary-receives-peabody-at-ny-ceremony

ピーボディー賞受賞に関する、バラエティ・ジャパンの記事です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090519-00000009-vari-ent

Photos by Masami Shioda

ピーボディー賞、TBSで放映 Peabody Awards Ceremony on TBS




ピーボディー賞の授賞式に、山さんと一緒に参加しました。
その様子を、たくさんのメディアが取材してくださいました。
TBSニュースの動画が下のリンクで観れます〜。Enjoy!

http://news.tbs.co.jp/20090519/newseye/tbs_newseye4136297.html

Together with Yama-san, we attended the Peabody Award Ceremony.
One of the Japanese major network, TBS, aired the news.
Click the above link to see it!

Sunday, May 17, 2009

明日はピーボディ賞 Peabody Award Ceremony tomorrow

I'm attending the Peabody Award Ceremony tomorrow (Monday, 18th) with Kazuhiko "Yama-san" Yamauchi and Kiyoko.
Lots of media including a TV crew from Japanese TBS are covering the event!

NY時間の18日(月)、ピーボディー賞の授賞式に参加します。
日本からはるばる駆けつけてくれた山さんと、ウチのカミさんと一緒です。

日本のメディアも取材に来て下さいます。
TBS系列のニュースで流れる予定!

清水康之さんからのコメント

最近いただいたコメント第7弾は、ライフリンク代表の清水康之さんです。
清水さん、ありがとうございました。

ーーー

この映画が映し出しているのは、
濃縮した日本社会の姿。私たちの現実である。
ー 清水康之
(NPO法人自殺対策支援センター・ライフリンク代表)

香山リカさんからのコメント

最近いただいたコメント第6弾は、精神科医の香山リカさんからです。
香山さん、ありがとうございました。

ーーー

病気を見る映画ではない。
クリニックの内部を見る映画でもない。
人間を見る映画である。
ー 香山リカ(精神科医)

Saturday, May 16, 2009

加藤真規子さんからのコメント

最近いただいたコメント第5弾は、当事者同士のサポートグループ「こらーるたいとう」の加藤真規子さんです。こらーる岡山に触発されて名付けられたそうです。先日、会合にお邪魔して大変楽しいひとときを過ごさせていただきました。

加藤さんのコメントは、自分で載せるにはちょっと恥ずかしいんですが、こういうコメントをいただけて嬉しかったです。

ーーーー

映画『精神』は胸が痛くなる映画だ。
それでいて身内(みのうち)が温かくなってくる。
この温もりは想田和弘という人の温かさなのだと私は強く思った。
ー 加藤真規子(こらーるたいとう)

Friday, May 15, 2009

サイゾーに記事掲載


サイゾー6月号(5月17日発売)に、『精神』についての記事が載りました。「ニッポンのタブー」という題名の特集の中です。

ちょっとセンセーショナルな見出しが躍っていますが、少なくとも『精神』に関する内容は、極めて穏当です。左上の写真でレンズを覗いているのは僕です(笑)。

http://www.fujisan.co.jp/product/1231897/

http://www.cyzo.com/2009/06/post_2099.html

BRUTUSに対談記事


本日発売のBRUTUS(6月1日号)に、僕と楽真琴監督(『雪の下の炎』)の対談が掲載されています。

楽さんもニューヨーク在住。実はずっと昔、楽さんは僕が勤めていた製作会社にインターンとして入って来られてすぐに辞められたんだけど、お互いがドキュメンタリー映画を作ることになって、メールや電話でずっと繋がっていました。今回、東京で対談が実現できて嬉しかった〜。

http://www.zassi.net/mag_index.php?id=2

上野千鶴子さんからのコメント

最近いただいたコメント第4弾は、社会学者の上野千鶴子さんです。
上野さん、ありがとうございました。

ーーー

この人たちから目をそらすことができないのは、
かれらがあまりにも剥き出しににんげんだからだ。
ー 上野千鶴子(社会学者)

オケのリハーサルを見学




昨日の日記に書いたベルリン国立歌劇場管弦楽団・トランぺット奏者のライナーさんのお誘いを受け、カーネギーホールでのリハーサルにカミさんと一緒にお邪魔した。

曲目はマーラーの交響曲第8番。指揮はマーラーの第一人者・ピエール・ブールーズである(真ん中の写真)。

プロのオケのリハーサルを見学するのは初体験。しかもカーネギー・ホールで、大好きなベルリン国立歌劇場管弦楽団の見学とあって、かなり興奮した。

指揮者のブールーズ氏は、80歳代半ばのマエストロである。会場に入って来られた姿は、歩みもゆっくりとされていて、ご高齢である印象だったが、ひとたび指揮をし始めるとピンと背筋が伸びて、身体の動きもダイナミック。別人のように若々しかった。

明日が本番とあって、曲は最初から最後まで通しで演奏された。物凄い迫力。特等席でこんなに凄い演奏を無料で聴けてしまう幸せをかみしめた。

その上、リハーサルなので、普段は見ることのできない、音楽家たちの素顔も垣間みれる。

例えば、演奏中にコンサートマスターがくしゃみして、それを周りの人がニヤニヤ笑ったりとか、本番ではあり得ないだろう。

それに、みなさん普段着なので、音楽家に見えない(笑)。特に声楽のソリストたちは、自分の出番になるまで楽器も持たずに椅子に座っているだけなので、ホント、普通のオジさん、オバさんにしか見えない(失礼!)。ところが彼らが出番を迎えて歌い始めると、信じがたい声量と表現力で、まさに「歌手」なのである。そして歌い終わって椅子に座ると、普通のオジさん、オバさん(再び失礼!)に戻る。その変幻自在な感じが、観ていてやたら面白かった。

我らが友・ライナーさんも、普段は気さくで冗談好きで、一緒にアホな話で盛り上がったりしてくれるのだが、ひとたび演奏に入るとキリリと引き締まって格好良かった〜!

リハーサルの途中、赤いジャケットを着込んだダニエル・バレンボイム氏が会場に入って来られて、嬉しそうに演奏を眺めたり、歌手の人と戯れながら会話されたりする一幕もあり、いやー、興味深い体験でした。

ライナーさん、ホントにありがとうございました!

Thursday, May 14, 2009

恐るべきバレンボイム

昨晩カーネギー・ホールにて、ダニエル・バレンボイム指揮・ベルリン国立歌劇場管弦楽団の演奏で、マーラーの交響曲第7番を聴いて来た。

ベルリンで知己を得たトランペット奏者がこのオケの長年のメンバーで、今回もいらしていたので聴きに行かせてもらったのであるが、素晴らしいの一言であった。

バレンボイムは前から凄い人だと思っていたけど、やっぱりこの人は恐ろしい。

彼の意識がオーケストラの隅々にまで行き届いていて、指揮棒や身体の動きが、そのまま音楽になって出てくる感じ。まるで巨大なオケがひとつの楽器のようである。かといって全体主義的で硬直した感はなく、オケのメンバーの個性や多様性がそのまま活かされていて、極小の音から極大の音まで、音のバラエティと面白さには感服するものがあった。僕には音楽のことは分からないけど、凄いもんは凄い!って感じであった。

コンサートの後で前述のトランぺッターとご飯を食べながら、上記のような感想を述べた。

彼いわく、バレンボイムは音楽に関しては半端ない厳しさで、稽古時でも1回間違えたら表情を変え、2回間違えたら睨みつけられ、3回間違えたらクビになるそうである。しかも、毎回振り方やリズムを変えるので、譜面を観ながらではなく、バレンボイムの動きを常に観ながら演奏しないといけない。しかもバレンボイムは、演奏者の予測を常に裏切るような解釈をし続けるので、「この演奏でいい」と安住できないのだそうである。裏を返せば、バレンボイムも「これでいい」と落ち着く瞬間がないのであろう。

僕はそれを聞いて、バレンボイムの演奏の凄まじさの秘密を垣間みた気がした。

演奏会のプログラムにバレンボイムによるマーラーについての論考があったが、それを読んで「やっぱりな」と2度納得した。その一部分をざっと訳してみる。
音楽を解釈する際には、その作品のあらゆる側面を軽視してはならない。偉大な才能の偉大たるゆえんは、彼がどんな細部にも、必要以上の重要性を付す意志と能力があるからである。しかし、そこで終わってはならない。イデオロギーになってはならない。イデオロギーとは「アイデアのシステム化」であると言えるが、システムは規範として機能し、思考停止を呼び起こし、アイデアの本質を殺してしまう。アイデアとは、常に発展し続けるものだからである。

こんな茨の道を、この人はよく歩んでいるなあ、それでよく病気になったりしないなあと、心の底から畏怖してしまう。

比べるのも厚かましいんだけど、僕などは、「常に発展し続ける」ことを思うだけで疲れてしまい、どこかで手を打ちたくなる。やっぱり最後は体力勝負なのか。

辻信一さんからのコメント

最近いただいたコメントシリーズ第3弾です。
辻さんとは、近日発売予定の雑誌『エココロ』で対談させていただきました。

ーーー

あの老医師のいる古民家の懐かしい病の風景が、
きっと、まともな世界への入り口だ。
ー 辻信一
(環境運動家・文化人類学者・明治学院大学国際学部教授)

Wednesday, May 13, 2009

雨宮処凛さんからのコメント

最近いただいた『精神』コメント第2弾は、雨宮処凛さんからです。
雨宮さん、ありがとうございました。

ーーー

この映画は、観る者に「人間」そのものを突きつけてくる。
時に混乱し、反発しそして共感している自分がいた。
完璧な人間なんて一人もいない。
その言葉がいつまでも耳に残っている。

ー 雨宮処凛(作家)

Tuesday, May 12, 2009

『精神』と『選挙』の公開日決定

『精神』の公開初日が決まりました。

東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムでは、6月13日(土)から毎日、

10:45
13:30
16:15
19:00(英語字幕付き)

の4回上映になります。6月13日の初日、10:45分の回の後、僕とこらーる岡山の山本昌知先生の舞台挨拶があります。

東京以外での上映館は、下のリンク。北は北海道から、南は沖縄まで、上映が決定しています。そして、今後どんどん増える予定です。星印のついた地域では、前売り券も販売してますので、どうぞご利用下さい。 特製ノートがつきます。
http://www.laboratoryx.us/mentaljp/theater.php

ウチの近くでも上映して欲しい!という方は、お近くのアート系映画館にリクエストお願いします。結構、お客さんの声で映画館は動きます。

それから、『選挙』復活のロードショーの初日が決まりました。
7月4日(土)から、東京・渋谷のライズXです。初日には僕と山さんの舞台挨拶も予定しています。こちらも、前売り券を発売します。また、全国で順次再公開していく予定です。

辺見庸さんからのコメント!

映画『精神』に関して、各界から続々とコメントをいただいています。 最近いただいた新着コメントを、毎日1つずつ、ご紹介したいと思います。 まずは、芥川賞作家の辺見庸さんから。

ーー

彼らの闇のなかに、私が潜む。
私の光のなかに、彼らが棲む。
私たちの心には、いかなる“境”もない。
そのことをこの作品はほのめかす。
驚愕のラスト5分を体感するためだけでも、
この映画は観るに値する。
心がめくりかえされる。
ー 辺見庸(作家)

Sunday, May 10, 2009

J-Castにインタビュー掲載

J-Castに僕のインタビュー(上・下)が載りました。

「モザイクかけたら人間は描けない」
http://www.j-cast.com/kaisha/2009/05/10040600.html

Friday, May 08, 2009

足利事件に思うこと

地元足利の事件、しかも実家のすぐ近くで起きたことなので注視していたが、やはり冤罪だった。いや、まだ判決が出た訳ではないのだが、唯一の証拠であったDNA鑑定が覆されたのだから、冤罪と言ってよいだろう。

この事件が冤罪だという主張は以前から根強く、下記のサイトに詳しい。ここに書かれていることが本当だとすると(たぶん大筋本当だと思う)、殺人犯も怖いけれど、もっと怖いのは警察や裁判所かもしれない。
http://www.watv.ne.jp/~askgjkn/index.htm

18年間も無実の罪で牢獄に入れられていたことを想像するだけで、背筋が寒くなる。しかも真犯人は他にいて、自由の身なのである。

気になるのは、次の様な発言である。

白井孝雄・栃木県警刑事総務課長の話 捜査は適正に行われ、供述についても信用性があると考えている。今後は裁判所の判断を見守っていきたい。

警察の課長としては、そう言わざるを得ないのかもしれないが、そういう「役割の言葉」とは別に、彼には「人間としての言葉」はないのだろうか。あったけれども、報道されなかっただけなのだろうか。

自らの人間としての良心を無視し、役割に埋没する時、このような恐ろしい結果が起きるのではなかろうか。

足利事件 受刑者DNA型一致せず (毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/today/news/20090509k0000m040020000c.html

 栃木県足利市で90年、4歳女児が殺害された「足利事件」で殺人罪などに問われ無期懲役が確定した元幼稚園バス運転手、菅家(すがや)利和受刑者(62)の再審請求に対する即時抗告審で、東京高裁(矢村宏裁判長)は8日、鑑定医2人から提出を受けた鑑定書を検察側、弁護側双方に渡した。いずれも女児の着衣に付いた体液と菅家受刑者のDNA型が一致しないとする内容。捜査段階で一致したとされ裁判で有力な証拠とされた当初のDNA鑑定が否定され、高裁が再審開始を決定する公算が大きくなった。
 弁護団が同日、記者会見し、鑑定書の内容を明らかにした。来月12日を期限に、双方が意見書を提出する。
 鑑定医は検察側推薦の鈴木広一(こういち)・大阪医科大教授(法医学)と弁護側推薦の本田克也・筑波大教授(同)。
 鈴木教授は遺留体液から抽出したDNA型と菅家受刑者のDNA型を比較したところ、同一人物であれば一致するはずの塩基配列の繰り返し部分が、常染色体(性染色体以外の染色体)で16個のうち14個で異なり、性染色体でも16個中12個が一致しなかった。このため「DNA型の多くが異なり同一の人に由来しない」と結論づけた。本田教授も性染色体の繰り返し部分の一致が8個中3個にとどまることなどから「同一人物に由来する可能性はあり得ないと言っても過言ではない」としているという。
 一方、検察側は今後▽確定判決はDNA鑑定だけでなく自白調書や状況証拠も踏まえ有罪認定している▽捜査段階の鑑定で体液が付着した部位の中心部分は使用済みで、今回の鑑定対象には別人のものが混入した可能性がある−−などと反論するとみられる。高裁はこうした主張を踏まえ最終的な判断を示す。
 DNA鑑定は警察庁科学警察研究所(科警研)が89年に始め、92年から全国で導入された。科警研は足利事件当時、精度について「血液型と併せ1000人に1・2人が一致する」(現在は4兆7000億人に1人超)と説明。最高裁は00年「科学的に信頼される方法」と初めて証拠能力を認めたため、事件はDNA鑑定を利用した科学捜査の象徴とされてきた。
 弁護側は02年、菅家受刑者の毛髪から独自にDNA型を調べた結果、警察の鑑定結果と異なっていたとして再審請求。しかし、宇都宮地裁は昨年2月、「毛髪が菅家受刑者のものと確認できない」として請求を棄却し、弁護側が即時抗告して東京高裁が昨年12月、異例の再鑑定実施を決めていた。【安高晋】

 ▽弁護団の話 鑑定は完全に誤っていた。検察は鑑定医への尋問をせず、すぐに結果を受け入れるべきだ。

 ▽渡辺恵一・東京高検次席検事の話 今後、新鑑定の内容を十分精査・検討し、適切かつ公正に対応する。

 ▽白井孝雄・栃木県警刑事総務課長の話 捜査は適正に行われ、供述についても信用性があると考えている。今後は裁判所の判断を見守っていきたい。

 ◇足利事件
 90年5月、栃木県足利市のパチンコ店駐車場で、保育園に通う女児(当時4歳)が行方不明になり、約700メートル離れた渡良瀬川の河川敷で遺体で発見された。川底から見つかった女児の着衣に付いた体液と、菅家利和受刑者が捨てたごみから採取したDNA型が一致し、菅家受刑者も殺害を認めたとして、栃木県警は91年12月、殺人容疑などで逮捕した。1審途中から菅家受刑者は否認に転じたが、1、2審で無期懲役判決を受け、00年、最高裁で確定した。

Wednesday, May 06, 2009

『精神』本のタイトル決定!

昨日までの弛緩した3日間とは打って変わって、今日から『精神』本の校正・編集作業が大詰めです。タイトルは決まりました。

『精神病とモザイク:
 タブーの世界にカメラを向ける』

生まれて初めて書く本だし、情熱と勢いに任せて筆を進めていたら、分量を書き過ぎちゃって、削るのに苦労してます。6月10日の刷り上がりを目指しています。

以下、その詳細。みなさん、どうぞご一読下さいませ!

ーーー

・タイトル シリーズCura
『精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける』
・著者 想田和弘
・体裁 46判、ソフトカバー、240ページ(予定)
・定価 本体1400円(税別)
・刊行 2009年6月中旬刊行予定
・発行 中央法規出版
・解説文

モザイク処理は絶対に使わない!——タブーに挑み、精神病の本質に迫った映画『精神』の想田監督が、制作から公開にいたる紆余曲折と葛藤を語る。精神病患者を撮る理由、 「観察映画」にこめた思い、被写体への共感、モザイクをめぐる葛藤……。映画には収め切れなかった数々のエピソードから、精神病大国・日本の現実と社会・メディアに広がるタブーについて考えさせる一冊。精神科医・斎藤環氏との対談も収録。

休む力

って、別に新書の題名ではないんですが(笑)。

いやー、この3日間、とにかく疲れ切った心身を徹底的に休めようと、寝たいときに寝て、食べたいときに食べ、飲みたいときに飲み、さんざんボーッとして、自分を甘やかしました。うしし。

でも、そのお陰で、全身に偏在していた疲労物質?みたいなものが随分減った感じで、かさついていた皮膚に少しだけ潤いが戻り、元気が戻ってきたような。休むって凄い。まだまだ休み足りませんが。

今まで何となく「何もしない=行為の欠如」「休む=生産の停止」と思っていたんですけど、それは誤解でしたね。

何もしないのは立派な行為だし、休むのは生産。それを実感しました。

そこで敢えて「休むのは力だ」と宣言したい。逆に言うと、休めないのは休む力が衰えているのだ、と。

この3日間の中でも、最初の1日は、次の日に休むために休んだって感じだった。2日目もそうか。つまりまだ休めてなかった。本当に休めたのは、ようやく3日目になってから。

休む力を養うためにも、休むことが必要なんだな。 このテーマ、マジで新書、書けるな(笑)。

できれば1か月くらいは続けて休みたいもんだ。決めた。今の仕事が一段落したら、そうしよう。

ゴールデンウィーク、みなさんは休めましたか。

Sunday, May 03, 2009

インフルエンザより怖いもの

はっきり言って、日本人や日本のメディアのこういうところ、相当に危なっかしいと思う。この前までは北朝鮮、草なぎ事件、そして今度はインフルエンザ。

インフルエンザなんて、まだ感染者ゼロだっていうじゃないか。それでこの騒ぎ。失笑を禁じ得ない。

NYの自宅近くの高校でも感染者が出たけど、誰もそんなに騒いでいない。
むしろこういう事態にパニックになることの方が、よっぽど怖いし有害だと思う。下記のような記事を読んだりすると、余計にそう思う。記者も好意的に取り上げている感じがするから、更に恐ろしい。

今度日本に帰ったら、NYから来たっていうだけで隔離されてしまいそうだ。そういうのはご免被りたい。冷静になって欲しい。

(あれほど騒いでいた北朝鮮問題はどうなったの?)

感染者に近づけばメールが届く 携帯電話で秋にも実験
http://www.asahi.com/business/update/0502/TKY200905020184.html

 (朝日新聞)利用者の居場所を特定できる携帯電話の全地球測位システム(GPS)機能を活用し、感染症の世界的大流行(パンデミック)を防げないか——。総務省は今秋にもこんな実験に乗り出す。新型の豚インフルエンザの感染拡大懸念が強まるなか、注目を集めそうだ。
 実験は都市部と地方の2カ所で計2千人程度のモニターを募って実施。GPSの精度や費用対効果を見極め、実用化できるかどうか検討する。
 具体的には、携帯電話会社などがモニター全員の移動履歴をデータベースに蓄積。その後、1人が感染症にかかったとの想定で全モニターの移動履歴をさかのぼり、感染者と同じ電車やバスに乗るなど感染の可能性がある人を抽出し、注意喚起や対処方法を知らせるメールを送る試みだ。
 こうした個人の移動履歴や物品の購入履歴を活用するサービスには、NTTドコモが提供する携帯電話サービス「iコンシェル」などがあり、今後もサービスの増加が見込まれている。ただ、プライバシーである移動履歴をどこまで共有して活用できるか、といった点は意見が分かれる。このため、総務省は実験を通じ、移動履歴の活用に対する心理的抵抗感などもあわせて検証する方針だ。(岡林佐和)

イメージエフにインタビュー第2弾

イメージエフに僕のインタビュー第2弾が掲載されました。聞き手は批評家の村山匡一郎さんです。

http://www.imagef.jp/interview/library/024/index.html