Saturday, March 09, 2013

TPPと資本主義と民主主義 <その2>

つまり、誰でも加入できる公的保険を導入しようとしたオバマの医療改革が保険業界などからの激しい抵抗にあって骨抜きにされたのは、資本主義が民主主義を屈服させた現象としてとらえるべきなんだ。原発事故が起きても脱原発が進まないのも、同じ現象。

そう考えると、ゴリゴリの新自由主義者である橋下徹が民主主義の破壊者であることは自然だし、与野党問わず新自由主義者が政治家や政府に多数(首相すらも!)紛れ込んでいる状況は、民主主義がトロイの木馬を抱えているようなもので、きわめてマズい状況なのである。

この流れでいくと、たぶん国家も解体もしくは弱体化していく。なぜなら、これまで民主主義は国家という制度を使って発展・成熟してきたわけだけど、民主主義を新自由主義者が攻撃し骨抜きにしていけば、国家もその巻き添えを食わざるを得ないからだ。おそらく。

少なくともTPPはその流れにある。グローバル資本は民主主義が邪魔なので、その器である国家の法律や権限や裁量や境界線を切り崩そうとしている。これを徹底させていけば文字通り国家は亡くなる。その作業を担おうとしているのが、国家主義者であるはずの安倍晋三であることは、なんとも皮肉だ。

つまり今や国家は、国内では政治システムに入り込んだ新自由主義者(=資本の代弁者)から侵蝕され、外からも国際協定などで攻撃を受けている。いや、正確には資本主義の敵は民主主義なので本当は国家などどうでもよいのだが、民主主義を実行する枠組みが国家なので国家を弱体化させようとしている。

最悪なのは、新自由主義者たちが、国家の機能のうち人々を抑圧する機能だけを残し、資本の傭兵のように使い始めるであろうこと。いや、たぶん確実にそうなっていく。

米国ではカネを出せば逮捕権のある非番警官を雇える。以前、アメリカの不動産王が、所有する古いビルを建て替えるため、住民を追い出そうとして対立した事件を取材したことがある。そのとき大家は警官を雇って警備させ、住民側に逮捕者が多数出た。

すでに資本による権力の乗っ取りは進行している。

でもいま進行中の状況は、資本主義が強権を発動して民主主義をねじ伏せようとしているわけではない。そういう局面もたまにあるけど、基本は違う。むしろ人々は進んで民主主義を捨てようとしている。

ここのところを勘違いすると理解が浅くなる。民主主義を浸食している力は、民主主義の外部にあるのではない。民主主義とは人々によって構成されているわけだが、その人々自身が、資本主義の価値観に染められ、民主主義を放棄しようとしている。

その点を理解することが肝心だ。

例えば、各社のこれまでの世論調査ではTPPに賛成と反対が、拮抗しているか、賛成が上回る結果が出ている。世論調査自体が操作的だというのを考慮しても、賛成の人がこれだけいることは見逃せない。賛成する人にとっても、明らかに不利な国際協定であるにも関わらず、である。

もちろんその背景には、TPP=貿易協定と宣伝するメディアを単純に信じ、その本当の不利益を人々が知らないからだという面もあるだろう。でも、それでもTPPが国内の農業を破壊するであろうことは、たぶんみんな承知している。承知した上で賛成している。なぜか?儲かると思っているからだ。

いや、もちろん、ほとんどの人はTPPで儲かるわけがない。むしろ収奪される側である。だけど、 賛成する人は「儲かるんじゃないか」というスケベ心を抱いている。ここが肝心だ。このスケベ心のせいで、不利な契約書に判を捺そうとしている。

そしてこのスケベ心を醸造する背景には、資本主義的価値観が人々の骨の髄まで浸透している事実がある。橋下大阪市長による様々な新自由主義的横暴を社会が止められないのも、まさにその理由によるものだし、原発やTPPが一定の支持を得てしまうのも同根の現象だ。

そのことについては、少し詳しくこのインタビューで述べた。
http://www.magazine9.jp/interv/souda/index1.php

福祉の切り崩しも、文楽つぶしも、TPPも原発も、同じ現象の多様な発露として観た方がよい。

こう書くと「想田は資本主義を否定している」と短絡する人がいる。しかし僕は資本主義的なシステムを社会の基本に据えることには反対していない。それは上記のインタビューでも述べた。

僕が異議を唱えているのは、資本主義的尺度ですべてを測ることなのだ。

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