Sunday, March 24, 2013

堀潤アナの排除と公共放送

NHKが組織として堀潤アナの排除に向かったことは、番組キャンセルなどの事実から動かしようがない。そしてその背景に原発問題と氏の発言や行動があることは、一連の経緯からしてたぶん間違いないだろう。堀アナの存在はNHKの評価を上げていたと思うが、これで一気に下がると思う。

堀さんがNHKの報道姿勢を批判したり原発問題の映画を作ったりしても、それをNHKの公式見解だと思う人はいない。仮に堀さんが原発に批判的な姿勢で番組を作ったとしても、その姿勢がおかしいと思う局内の作り手は異なる番組を作ればよい。要は堀アナはNHKを揺るがす存在ではなかったはずだ。いや、揺るがすどころか組織の活性化に貢献していたと思う。

そういう堀さんを「NHKを揺るがす存在」として誤って認定し免疫機能を発揮してしまうところに、NHKの本当の病態があるように思う。免疫機能で排除すべきは堀さんではなく、彼を排除しようとした細胞であるはずだ。あべこべだ。

しかしこの病態は今に始まったことではない。僕のささやかな番組制作経験では、局側との試写では僕が面白いと思う場面ほど物言いがつき、削られそうになることが多かった。面白いってことは物議を醸しかねないってことだ。しかしそれが最も嫌われた。面白いことより、平穏であることが好まれた。

今回の堀さん排除の動きは、組織として「平穏であること」を望んだ結果なのだと思う。皮肉なのは、実はその排除の行為は全く平穏ではなく、公共放送としてのNHKにとって大きなリスクを孕んでいるということだ。そしてたぶん排除した側は、そのリスクの大きさに気がついていないということだ。

なぜそんな倒錯が起きるのか。NHKの組織を構成する人々が、「公共」の意味をはき違えていることに根本の原因があるように思う。

NHKの公共性は、政府や党や業界から独立し自由な報道を行うことによって担保される。つまり堀アナのような人が活躍できることが、NHKの公共性そのものである。ところがNHK上層部は「公共=政府見解に寄り添うこと」だと勘違いしているようだ。でないと、堀さんを排除したりはしないはずだ。

普通に考えれば分かる筈なのだが、本来「公共性」の重要な要素は、包容力であるはずだ。なぜなら、世の中にはいろんな考えの、いろんな事情を持った、いろんな人がいる。そのすべてを包摂するのが「公共」だからである。つまり異分子を排除するような動きは、まったくもって、反・公共なのである。

街の広場は公共の場である。誰でも入れるのが基本だ。それが「公共」の概念だからだ。ところが広場の入り口で入れる者と入れない者を選別し始めたらどうか。当然、広場の公共性は薄まる。

NHKは受信料で運営される公共放送である。だから本来、誰でも入れる広場を目指すべきなのである。

(ツイートをまとめました)

Saturday, March 16, 2013

TPPと農業と新自由主義

くどいようですけど、北海道の農業の7割が廃業に追い込まれ、沖縄のコメやサトウキビが100%全滅し、日本の農林水産物全体の4割が壊滅する(つまり農家や漁師や林業の4割が失業する)という試算が出ているのに、それでもTPPを推進する「国益」って、いったいなんですか?

「道の試算では関税撤廃の例外が実現しなかった場合、道内農家の7割が営農を続けられなくなる」(北海道新聞)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/449610.html

「県内の農水産業も壊滅的な打撃を受けることになる。県の試算によると、農産物のサトウキビ、乳製品、コメは輸入品などに100%取って代わられる。産業そのものが消滅してしまう事態である。パイナップルや牛肉、豚肉も生産減少率が80~70%と高い。水産物ではカツオ・マグロ、車エビ、イカなどが90%。産業として立ちゆかなくなる恐れが出てくる。農産物と水産物を合わせると、生産減少率は53・1%(580億円)となる。波及効果まで勘案すると、影響額は1422億円に上る。県内のサトウキビ生産農家約1万7千戸、工場従事者約1300人の雇用に深刻な影響を及ぼす。特にサトウキビが基幹産業の離島は経済活動が成り立たなくなり、島が存続するかどうかの岐路に立たされると言っても過言ではない。」(沖縄タイムス)
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-03-16_46591

「海外から安い輸入品が増えるため、農林水産物の生産額が現在の約4割に相当する3.0兆円減るが、輸出増加や消費拡大が補うとした。」(毎日新聞)
http://sp.mainichi.jp/m/news.html?cid=20130316k0000m010058000c&inb=sns

TPPで農林水産物の生産力、今の四割減だよ、四割減!

みんな、ホントに分かってんの?!「攻めの農業」で農業を復活させるというなら、なんで四割も減るんだよ。完全に矛盾している。

自国の農林水産業の生産力が四割も減ると試算を自ら出しながら、なおかつTPPに参加する首相。それを支持してしまうメディアや日本人。

これ、単純に考えて農地の4割が荒廃するってことです。

そしてそれをみんなで許容しちゃうってことです。

日本という国は、自国で食べ物を作ることを放棄した、っていうことです。

想像しにくいかもしれないけど、TPPに入れば、政府の試算ですら少なくとも国産品の4割は店頭から消えるんだよ。

日本人はそのことをイメージできているのだろうか?

たぶん、「農林水産業は四割減るけど、輸出増加等で全体的には0.66%(!)GDPが増える」という説明を聞いて、「ああ、全体的には微増するのか、それならいいや」と数字だけ見て納得しちゃう人が多いのだろう。

数字だけで判断すると本質を見誤ることの見本のような例。

そもそも、TPP推進派などの新自由主義者が金科玉条のように言う「自由競争」ってのも、物凄くいかがわしい。だってその自由競争とやらの結果としてリーマンショックが起きたときに、自由に好き勝手やってた会社は潰れたんですか?

潰れたのはリーマンだけでしょう。他は税金で救済ですよ。

僕はあれを見て唖然としたよ。だって全然自由競争じゃないじゃん。

どころか、普段連中がダニみたいに毛嫌いしている「税金に寄生している貧乏人」の何倍の税金を使ったのか。しかも経営者はボーナスを何億円ももらう。

あんなのの、どこが自由競争なんですか。

いいですか、資本家の連中が「自由競争」と言うとき、その弱肉強食的な圧力に晒されるのは、彼らではないんですよ。彼らはその枠外にある。困ったら税金で助けてもらえるんだから。

本当に弱肉強食的な圧力に晒されるのは、99%の一般人です。それを1%が「自由競争」と呼んでいるんですよ。

そもそも、TPPがその典型例であるように、「自由競争」とやらのルールは1%が決める。99%はルールを決めるプロセスには入れてもらえない。

それで「自由に競争しようぜ」って言ったって、誰が有利かなんて最初から分かってるだろ!

興味深いのは、新自由主義的な政治家は「既得権益」という言葉を使って労組や公務員、生活保護者(!)などを攻撃するくせに、絶対に1%の富裕層へは矛先を向けないことです。なぜなら、新自由主義者は1%の究極の「既得権益」のために働いているからですよ。

それにしても、こないだの衆院選で当選した自民党議員295人のうち、205人はTPPに反対を公約してたわけで。それなのにこうなっちゃったってことは、ホントに選びようがないってことだよな。

こうなると、次の選挙では「反TPPの候補に投票しよう」ってことすら虚しくて言えなくなる。だってそうでしょう。反対議員を205人も当選させ、しかもそれで自民が与党になったっていうのに、結果は「TPP参加」なんだからさ。

つまりブレーキを踏んだらアクセルだったってことです。

Saturday, March 09, 2013

TPPと資本主義と民主主義 <その2>

つまり、誰でも加入できる公的保険を導入しようとしたオバマの医療改革が保険業界などからの激しい抵抗にあって骨抜きにされたのは、資本主義が民主主義を屈服させた現象としてとらえるべきなんだ。原発事故が起きても脱原発が進まないのも、同じ現象。

そう考えると、ゴリゴリの新自由主義者である橋下徹が民主主義の破壊者であることは自然だし、与野党問わず新自由主義者が政治家や政府に多数(首相すらも!)紛れ込んでいる状況は、民主主義がトロイの木馬を抱えているようなもので、きわめてマズい状況なのである。

この流れでいくと、たぶん国家も解体もしくは弱体化していく。なぜなら、これまで民主主義は国家という制度を使って発展・成熟してきたわけだけど、民主主義を新自由主義者が攻撃し骨抜きにしていけば、国家もその巻き添えを食わざるを得ないからだ。おそらく。

少なくともTPPはその流れにある。グローバル資本は民主主義が邪魔なので、その器である国家の法律や権限や裁量や境界線を切り崩そうとしている。これを徹底させていけば文字通り国家は亡くなる。その作業を担おうとしているのが、国家主義者であるはずの安倍晋三であることは、なんとも皮肉だ。

つまり今や国家は、国内では政治システムに入り込んだ新自由主義者(=資本の代弁者)から侵蝕され、外からも国際協定などで攻撃を受けている。いや、正確には資本主義の敵は民主主義なので本当は国家などどうでもよいのだが、民主主義を実行する枠組みが国家なので国家を弱体化させようとしている。

最悪なのは、新自由主義者たちが、国家の機能のうち人々を抑圧する機能だけを残し、資本の傭兵のように使い始めるであろうこと。いや、たぶん確実にそうなっていく。

米国ではカネを出せば逮捕権のある非番警官を雇える。以前、アメリカの不動産王が、所有する古いビルを建て替えるため、住民を追い出そうとして対立した事件を取材したことがある。そのとき大家は警官を雇って警備させ、住民側に逮捕者が多数出た。

すでに資本による権力の乗っ取りは進行している。

でもいま進行中の状況は、資本主義が強権を発動して民主主義をねじ伏せようとしているわけではない。そういう局面もたまにあるけど、基本は違う。むしろ人々は進んで民主主義を捨てようとしている。

ここのところを勘違いすると理解が浅くなる。民主主義を浸食している力は、民主主義の外部にあるのではない。民主主義とは人々によって構成されているわけだが、その人々自身が、資本主義の価値観に染められ、民主主義を放棄しようとしている。

その点を理解することが肝心だ。

例えば、各社のこれまでの世論調査ではTPPに賛成と反対が、拮抗しているか、賛成が上回る結果が出ている。世論調査自体が操作的だというのを考慮しても、賛成の人がこれだけいることは見逃せない。賛成する人にとっても、明らかに不利な国際協定であるにも関わらず、である。

もちろんその背景には、TPP=貿易協定と宣伝するメディアを単純に信じ、その本当の不利益を人々が知らないからだという面もあるだろう。でも、それでもTPPが国内の農業を破壊するであろうことは、たぶんみんな承知している。承知した上で賛成している。なぜか?儲かると思っているからだ。

いや、もちろん、ほとんどの人はTPPで儲かるわけがない。むしろ収奪される側である。だけど、 賛成する人は「儲かるんじゃないか」というスケベ心を抱いている。ここが肝心だ。このスケベ心のせいで、不利な契約書に判を捺そうとしている。

そしてこのスケベ心を醸造する背景には、資本主義的価値観が人々の骨の髄まで浸透している事実がある。橋下大阪市長による様々な新自由主義的横暴を社会が止められないのも、まさにその理由によるものだし、原発やTPPが一定の支持を得てしまうのも同根の現象だ。

そのことについては、少し詳しくこのインタビューで述べた。
http://www.magazine9.jp/interv/souda/index1.php

福祉の切り崩しも、文楽つぶしも、TPPも原発も、同じ現象の多様な発露として観た方がよい。

こう書くと「想田は資本主義を否定している」と短絡する人がいる。しかし僕は資本主義的なシステムを社会の基本に据えることには反対していない。それは上記のインタビューでも述べた。

僕が異議を唱えているのは、資本主義的尺度ですべてを測ることなのだ。

Thursday, March 07, 2013

TPPと資本主義と民主主義

「東京新聞」の報道によると、TPPに一旦交渉に参加したら自分の意志でやめれないらしい。それに、既に決まった条件は飲むしかないらしい。

これ、帰れない「ぼったくりバー」みたいだな。

こんなのになんで好き好んで参加すんの??

いったん交渉に参加したら日本の意志で抜けられない、詳しい内容すら不明の国際協定に、日本国民の判断を仰がず、首相が勝手に参加してしまうことは、憲法の国民主権に反すると思うんだけど、どうでしょう?

っていうか、交渉に参加を表明したら最後、日本の意志では抜けられないという極悪な条件を極秘にするって、その時点でTPPは非常にいかがわしいし、首相がその事実を日本国民に極秘にしているならば、首相も極めていかがわしい。

会社であれば、社の利益に反する背任行為でしょうに。

そもそも、交渉内容が極秘でリークでしか伝わってこないTPPという国際協定について、国民はどうやって判断すればよいというのか。「内容が分からないから参加しない」という判断以外ありえないだろう。

それとも皆さんは普段、「内容は極秘だけど悪いようにしないから押印して」って言われて契約書に判を捺すのだろうか?

ISDS条項が各国の憲法よりも上位に位置し、国民主権を侵すことはかなり知られてきた。しかし、各国の国民に交渉内容を極秘にしながら交渉が進められている国際協定であるTPPは、その交渉の仕方そのものが、国民主権に反している。

つまりTPPとは、企業が国民に優越する「企業主権」なのだ。

後世の歴史家は、TPPなどの現象を記述する際に「国民主権を大原則として発展してきた近代民主国家は、この頃から事実上の企業主権へと移行していった」と書くのではないだろうか。それをもしかしたら「表面上は民主主義にのっとって極秘裏に進められた無血革命」と呼ぶかもしれない。

国民主権が無力化された「企業主権」の世の中では、「国民」は解体されて「消費者」や「労働力」になる。実際、そういう変化はもう起きている。現在進行形の変化である。

TPPの草案に、企業の代表である顧問600名はアクセスできても、国民の代表であるアメリカの議員が閲覧できないのは、まさに「企業主権」そのもの。
http://yamachanblog.under.moo.jp/?eid=512

東西の冷戦構造の中で、西側では民主主義と資本主義を混同する言説がまかり通っていたが、そのすり込みは今頃になってボディブローのように効いている。みんなが混同している間に、だましだまし、資本主義が民主主義を飲み込みつつある。

資本主義にとって、民主主義はときに邪魔だからだ。

つまり、いま起きていることは、こうだ。

共産主義と言う強大な敵がいた時代には、資本主義は民主主義を味方にして手を組んだ。しかし共産主義が弱体化し敵でなくなったいま、資本主義は儲けるために民主主義が邪魔になりつつある。だから今度は民主主義を弱体化しようとしている。

「資本主義」の対立軸には、いままで「共産主義」や「社会主義」を想定してきたが、現代においては、それが対立するのは「民主主義」なのである。

民主主義が、資本主義をどのように邪魔するのか。たとえば、公的保険を作ってすべての人に健康保険を享受できる権利を与えようというのは、個人の生存権を重んじる民主主義の発想だが、健康保険に参入して儲けたい保険業界という資本主義勢力には邪魔でしかない。

あるいは、環境基準。資本主義は、本音では環境なんておかまい無しに工場を安く作って汚染水垂れ流しでバンバン生産したいだろうが、民主主義では個人の生存権を重視するので、環境基準を設けて企業の活動に一定の制限を課して縛る。邪魔だ。

あるいは、労働基準。資本主義勢力にとっては、労働力なんて安ければ安いほど良い。しかし、例えば時給50円だったら労働者の人権、生存権など守れない。だから民主主義では労働法を作り企業の活動を制限し、個人の人権を守ろうとする。これも資本主義にとっては、すんごく邪魔。

つまり、資本主義による民主主義への攻撃は、これまでもネチネチと進行してきて民主主義はいま病んで重症なんだが、TPPは民主主義が入院している病院を、今度はバズーカ砲で奇襲攻撃しようとしているわけだ。

これで民主主義は即死するかもしれないし、運良く生き延びても弱体化は避けられない。それは日本だけでなく、攻撃を仕掛けているようにみえている、アメリカだって同じなのである。

人類の歴史は、いまひとつの曲がり角に差し掛かっているのかもしれない。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013030702000237.html?ref=rank


「東京新聞」TPP参加に極秘条件 後発国、再交渉できず
 2013年3月7日
 環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加問題で、二〇一一年十一月に後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた九カ国から「交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある」「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」などと、極めて不利な追加条件を承諾した上で参加を認められていた。複数の外交関係筋への取材で七日分かった。
 各国は今年中の交渉妥結を目指しており、日本が後れて参加した場合もカナダなどと同様に交渉権を著しく制限されるのは必至だ。
 関係筋によると、カナダ、メキシコ両政府は交渉条件をのんだ念書(レター)を極秘扱いしている。交渉全体を遅らせないために、後から参加する国には不利な条件を要求する内容だ。後から入る国は参加表明した後に、先発の国とレターを取り交わす。
 カナダなどは交渉終結権を手放したことによって、新たなルールづくりの協議で先発九カ国が交渉をまとめようとした際に、拒否権を持てなくなる。
 交渉参加に前向きな安倍晋三首相は、「『聖域なき関税撤廃』が前提ではないことが明確になった」と繰り返しているが、政府はカナダとメキシコが突きつけられた厳しい条件を明らかにしていない。日本がこうした条件をのんで参加した場合、「聖域」の確保が保証されない懸念が生じる。
 カナダ、メキシコも一部の農産品を関税で守りたい立場で、日本と置かれた状況は似ている。国内農家の反対を押し切り、対等な交渉権を手放してまでTPPの交渉参加に踏み切ったのは、貿易相手国として魅力的な日本の参加とアジア市場の開拓を見据えているからとみられる。
 先にTPPに参加した米国など九カ国は交渉を期限どおり有利に進めるため、カナダなど後発の参加国を「最恵国待遇」が受けられない、不利な立場の扱いにしたとみられる。
 <TPP交渉参加国> 2006年、「P4」と呼ばれたシンガポールとニュージーランド、チリ、ブルネイによる4カ国の経済連携協定(EPA)が発効。これに米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが10年に加わり、9カ国に拡大した。その後、カナダとメキシコも参加を表明し、12年10月の協議から11カ国で交渉している。