Monday, December 31, 2012

ベアテ・シロタ・ゴードンさんについて

ベアテ・シロタ・ゴードンさんが亡くなった。僕が駆け出しのTVディレクターだった頃、アメリカのTVにConstitution Writerという肩書きで出演されてたのを観てビックリした。日本国憲法の草案を書いた人がそこにいるってことが衝撃だった。

すぐさま撮影を申し込み、『ニューヨーカーズ』というNHK衛星第1の番組で取り上げさせてもらった。20分の軽めのミニ・ドキュメンタリー・シリーズに無理矢理押し込んだので、編集段階でNHKと物凄く揉めた。尺も短いし十分なことはできなかったけれど、僕にとっては入魂の一作である。

ベアテさんの父親はレオ・シロタという世界的なピアニスト。ベアテさんは子供のころ家族で日本に住んでいた。だがアメリカに留学中に太平洋戦争が勃発。ベアテさんは、日本に残してきた音信不通の両親に会いたい一心で、敗戦後GHQにスタッフとして志願した。それが唯一、日本に入る手段だった。

GHQの一員として来日したベアテさんは、やがて日本国憲法の草案を書くチームに配属された。当時彼女は22歳。唯一の女性。戦前の日本で女性が虐げられているのを目の当たりにしていたため、女性の権利を憲法に盛り込もうと奮闘した。それは両性の本質的平等を定めた憲法第24条として結実した。

日本語が堪能なベアテさんは、GHQ草案を日本語に訳す作業や、日本政府との折衝での通訳としても活躍した。草案は1つ1つ日本側と協議され、両性の本質的平等を定めた第24条については日本側から「日本文化に合わない」と激しい抵抗を受けたそうだ。

紛糾の末、最後はケーディス大佐が「この条文はベアテが書いた。彼女に免じて受け入れないか?」と日本側に提案した。ベアテさんと緊密な交流があった日本側は、結局はそのひと言が決め手になって受け入れたそうだ。因みに両性の本質的平等という概念は、合衆国憲法にもない先進的なアイデアである。

「日本国憲法はアメリカに押し付けられた憲法だから改憲が必要だ」という声が高まっているが、僕は押し付けられて良かったと思っている。少なくとも「婚姻における両性の本質的平等」は無理にでもネジ込んでもらって良かった。あれがなかったら、日本の女性は今よりも不利な立場に置かれただろう。

そもそも、GHQが草案を書くことになったのも、最初に日本側が出して来た新憲法案が大日本帝国憲法とほぼ同じだったからである。GHQが日本の草案をそのまま受け入れていたら、戦後の日本の民主主義はあり得なかった。

無論、GHQに圧力を受けず、最初から日本政府が自主的に民主的な憲法を書けたのなら、それほど素晴らしいことはないだろう。だが、押し付けられた日本国憲法と、自主的に書いた「大日本帝国憲法モドキ」のどちらが望ましいかといえば、圧倒的に前者であろう。

ベアテさんのご冥福をお祈りするとともに、「日本国憲法に盛り込まれた平和条項と、女性の権利を守ってほしい」という遺言を、重く受け止めている。

1999年、『ニューヨーカーズ』撮影時に映したスナップ。左から、あの伝説的舞踏家の大野一雄さん、ベアテ・シロタ・ゴードンさん、そして僕。 まだ29歳か30歳。大野さんをNYのダンス界に最初に紹介したのは、ベアテさんだった。撮影期間中にちょうど大野さんがNYに公演でこられていて、他界したベアテさんのお母さんのために踊ってくださった。今考えると奇跡的な番組だ。

Monday, December 10, 2012

自民党改憲案は「憲法の破棄」である。

自民党の改憲案について、何が一番問題なのか、僕なりの見解を下に記したい。

天賦人権説とは、平たく言えば、男も女も異性愛者も同性愛者も健康な人も病気の人も障害のある人もない人も子供も老人も右翼も左翼もアナーキストも、生まれながらに人権がある、というもの。

自民党は改憲案でそれを公式に否定し、義務とセットにした。つまり義務が果たせない人間には人権がない、と。

[自民改憲案]第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

更に自民党改憲案は、人権を制限するものとして現行憲法にある「公共の福祉」を書き換え、「公益及び公の秩序」とした。

「公共の福祉」とは、Aさんの人権が制限されるのはBさんの人権と衝突する場合のみ、という考え方。それに対し「公益及び公の秩序」とは社会や国の利益と秩序を指す。
http://www.jicl.jp/chuukou/backnumber/09.html

言葉を言い換えただけじゃないかと疑う人は、自民党改憲案のQ&Aを読むんでください。

「「公共の福祉」という文言を「公益及 び公の秩序」と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにした」
http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf

自民党改憲案のQ&Aには次のような言い訳も載っている。

「なお「公の秩序」と規定したのは、「反国家的な行動を取り締まる」ことを意図したものではありません。「公の秩序」とは「社会秩序」のことであり、平穏な社会生活のことを意味します。個人が人権を主張する場合に、他人に迷惑を掛けてはいけないのは、 当然のことです。そのことをより明示的に規定しただけであり、これにより人権が大きく制約されるものではありません」。

しかし、他人への迷惑を心配するなら、まさに「公共の福祉」で制約すればよい。明らかなごまかしである。

つまり自民党の改憲案では、平たく言うと国家の利益や秩序のために個人の人権を制約できることになる。政府が考える「国益」に反する行動や集会や映画や演劇や論文や詩や研究や教育や法律は、憲法の名の下にすべて違法化できる。改憲案の起草者はそのことに極めて自覚的であり、確信犯である。

したがってこの条文が意味するところは、もはや明らかだろう。

[自民改憲案]第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。 2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

この条文の意味も明確だろう。

[自民改憲案]第十三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。

個人の財産すら、国が国益を理由に自由に没収できる。

[自民改憲案]第二十九条 財産権は、保障する。 2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。

自民改憲案では、拷問及び残虐な刑罰も「絶対に」禁じるわけではない。

[現行憲法]第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

[自民改憲案]第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する。

自民改憲案では、次の条文も丸ごと削除された。

[現行憲法] 第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

極めつけはコレ。

[現行憲法]第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

[自民改憲案]第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。

憲法が縛る対象が、権力者ではなく国民になっている。これは立憲主義の明確な否定であり、憲法が憲法ではなくなっている。

つまり、自民党改憲案は「憲法改定」などという生易しいものではない、それは「憲法破棄」と呼べるものなのである。

自民党改憲案の全文(PDF)
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf


Sunday, December 09, 2012

モジモジ先生の逮捕と自民党の改憲案が示唆するもの

モジモジ先生が逮捕されたことがTLで騒がれているが、伝えられる状況が正しければ、現行憲法では起訴までは不可能。だが、自民改憲案の下では、先生が瓦礫に反対しただけで「公益及び公の秩序」を乱した罪で逮捕・起訴・懲役も可能だ。普段僕らは意識しないが、我々は憲法によって守られている。

自民党の改憲案のように「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に書き換えられてしまうと、どうなるか。治安維持法のような法律が合憲とされる。するとどうなるか。小林多喜二がそうされたように、政府を批判する「思想犯」は堂々と逮捕・勾留され、拷問され、合法的に殺されかねない。

自民改憲案の下で治安維持法のような法律ができれば、僕のこのブログだって「公益及び公の秩序」を乱すものと認定され、逮捕・勾留・起訴されるだろう。そして有罪になる。僕はそんな世の中はまっぴらご免なので、こうして細々とポストしている。

橋下による大阪市職員に対する思想調査だって、現行の日本国憲法の下では明らかに憲法違反だから破棄されたが、自民党の改憲案が通ってしまえば、合憲だ。何の問題もない。抗議すらできない。抗議したら逮捕されるから。

恐ろしいのは、自民党は既にそのような改憲案を作っていて、その上で、今回の衆院選で過半数を獲ろうとしていることだ。これに維新の会でも加われば、下手をすれば衆院の3分の2を占める。すると改憲も具体的な政治課題になりかねない。改憲への世間のアレルギーも薄い。状況は楽観できない。

(ツイートを再構成してまとめました)

Tuesday, December 04, 2012

『演劇1・2』各地の上映予定

『演劇1・2』の各地の上映予定です!

渋谷のシアター・イメージフォーラムで『演劇1』が観れるのは、今週金曜日(12/7)まで!連日、朝の10:50から。12/8(土)からは『演劇2』が一週間のみ上映です。
bit.ly/9PJ2YH

福岡・KBCシネマで『演劇1』が観れるのは、今週金曜日(12/7)まで!連日朝の9時40分から(早朝でゴメンなさい)。12/8(土)からは『演劇2』が始まります。
bit.ly/bhonBI

広島・横川シネマでは、『演劇1』『演劇2』が両方とも上映中。来週金曜日(12/14)まで。お見逃しなく!
bit.ly/i8wrT0

松山・シネマルナティックでは、12/8(土)から『演劇1』『演劇2』の上映スタート。2週間限定です。
bit.ly/hb5gJE

金沢・シネモンドでは、12/8(土)から『演劇1』『演劇2』がスタート。初日には僕のスカイプトークもあります。一週間限定公開です。あっという間に終わっちゃうので、ご注意!
bit.ly/gzCePI

京都シネマでは、12/8(土)から『演劇1』の一週間限定公開スタート。連日朝の10時半から。初日は平田オリザさんが舞台挨拶!12/15(土)からは『演劇2』の一週間限定公開。連日朝の10:40から。お見逃しなく。
bit.ly/X48vun

http://www.engeki12.com/theater.html

衆院選と自民党

約4か月ぶりに、ニューヨークに戻りました。と思ったら日本では衆院選が始まりましたね。

自民党が支持率でトップを維持していることが気がかりです。なぜなら、安倍晋三総裁は原発推進と改憲を掲げているからです。

安倍氏「原発新設も」自民総裁 規制委基準満たせば
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012120102000094.html


改憲を次期衆院選の争点に 消極的な議員は退場を、自民・安倍総裁
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120930/stt12093019260008-n1.htm

しかも、改憲の内容は事実上の「基本的人権の剥奪」というとんでもないものを含んでいます。
http://togetter.com/li/296331

民主党にがっかりして、今度は自民党に、と考える気持ちは分からないではありません。しかし思い出して欲しいのですが、3年前、自民党があまりにダメだから、政権交代が起きたのです。そして、自民党が野党時代に反省して良くなっているのならいいのですが、実際には、地震国日本を原発だらけにした反省もなければ、思想的には極右化傾向も強いという点で、劣化すらしているように見えます。

そんな自民党が衆院選の支持率でリードしている。この現実が、非常に気がかりです。