Friday, May 07, 2010

映画『ザ・コーヴ』を巡る座談会

映画『ザ・コーヴ』を論じるため、『創』6月号(5/7発売)の座談会に出ました。僕はニューヨークからスカイプで。

この問題は、「反日」だとか「盗撮けしからん」だとか、どうも表層的な議論ばかりが先行してよくない。座談会では、捕鯨や食の問題から始まって、ドキュメンタリー論やプロパガンダ論にもなり、かなり突っ込んだ議論が出来たと思います。

ちなみに、森達也さんと綿井健陽さんは映画を高く評価していますが、僕は映画としては評価していません(イルカ猟自体には否定的です)。意見が違って面白かったです。是枝さんは座談会には参加せず、コメントを寄せられたようです。

ドキュメント映画「ザ・コーヴ」の制作手法と上映中止騒動を考える。
森達也×綿井健陽×想田和弘+是枝裕和 司会:篠田博之編集長
http://bit.ly/asQXP3

以下、僕の発言部分のほんの一部を抜粋します。
篠田 アメリカ人にとって、イルカを獲るなんてとんでもないという感覚は一般的なの?

想田 すごく平均的ですよ。だからこれは、アメリカでは非常に安全なトピックです。僕はそこが、あの監督の姑息なところだと思うんです。おそらく彼はベジタリアンで、本当に標的にしたいのは、動物全般を食べることなのだと思います。でもそれでは広範な支持を得られない。それこそ、今の日本人から上がっているのと同じような反発が、アメリカやヨーロッパから来るでしょう。けれどイルカなら、欧米では誰も食べません。だから観客はみんな簡単に正義の側に立てるんです。線を引いて、自分たちはみんなこちらの正義の側、イルカ漁をこらしめようという側に立てる。そしてみんなで「ひどいひどい」と言い立てる。
 テレビシリーズが決まったというところからピンときたのですが、エンタテインメントとしてバッシングする、つまり、やっつければやっつけるほど視聴率が上がるという構図を、そこに見てしまった気がします。オウム報道と同じですよ。もちろん、日本から反発があることもわかっているのですが、それは彼らにとって、非常に限定された、遠い国の話です。それこそ、イラクにミサイルを撃ち込むのと同じなんです。自分たちは安全なところにいて、遠くのよくわからない国にミサイルを撃つ。そういう発想を僕は感じました。
 僕もベジタリアンなので、監督が狙うことはよくわかります。でも、やるんだったらもっと本質的なところでやってほしい。一般社会で支配的な価値観に挑戦するなら、肉を食べるという問題に行くべきですが、この映画は、そういう試みをしようとしません。

森 ならばこの作品が、イルカではなく牛肉の屠殺やアメリカの食肉業界を告発するドキュメンタリーならば、想田さんの評価は変わるのでしょうか?

想田 うーん……、それほど変わらないと思います。というのも、この映画はドキュメンタリーというよりも、すごくよくできたプロパガンダだと思うんです。アカデミー賞に長編プロパガンダ賞という部門があるとすれば、これは一等賞だと思いますよ(笑)。

森 つまり監督の姑息さは作品の評価とは関係ない。要するにこの作品は、想田さんが規定するドキュメンタリーとは違うということですね。

想田 そうですね。それは、立ち位置が中立じゃないということではありません。偏っていてもいい。むしろ、ドキュメンタリーを撮る人は全員偏っているものですからそれはいいんですが、僕が一番問題にしているのは、「未知に対して開かれていない」ということなのです。先に結論ありきで、その結論に閉じ込めるためにいろんな要素を拾ってきて、結論を強化するためにしか素材を使っていない。作り手にためらいや疑問がない。とにかく、太地町の漁師をこらしめよう、糾弾しよう、そのための材料を集めよう、と。そこが僕には、ドキュメンタリーとして認めがたいんです。

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