Saturday, June 14, 2008

秋葉原とテロリズム

東浩紀氏は朝日新聞への寄稿で、秋葉原事件は幼稚なテロリズムであると指摘した。「社会全体に対する空恐ろしいまでの絶望と怒り」を背景に、しかし怒りの対象が曖昧で、首相官邸でもなく経団連でもなく、秋葉原へ突っ込んでしまった。そのような分析である。

この指摘は極めて鋭い。事実、この事件に触発されて殺人や爆破を予告する事件が相次ぎ、警察は厳重警戒態勢をしいた。

 携帯電話の会員制掲示板サイトに「明日、九州のある駅で歴史に残る大量殺人する」と書き込まれていることが14日分かり、九州管区警察局は九州の各県警に、JRや私鉄の駅などの警戒と警備強化を指示した。福岡県警は威力業務妨害容疑などにあたる可能性があるとみて捜査を始めた。
 管区によると、14日午前、書き込みを見た複数のサイト利用者から福岡県警などに通報があった。書き込みは同日午前7時19分で、「大量殺人する」とした上で「俺(おれ)も加藤と同じなんだ 加藤に共感したんだ 俺、死刑になる 加藤よりも多い人数を殺す」と書かれていた。加藤は東京・秋葉原の通り魔事件で逮捕された加藤智大容疑者を指すとみられる。(6月14日、毎日新聞)

 インターネット掲示板に和歌山市のテーマパークを爆破すると書き込んだとして、和歌山県警和歌山西署は14日、兵庫県西脇市小坂町、アルバイト鉄工員、前田尚希容疑者(23)を威力業務妨害容疑で逮捕した。容疑を認め「本気ではなかった」などと供述しているという。
 調べでは、前田容疑者は12日午後2時50分ごろ、携帯電話でネット掲示板に和歌山マリーナシティ(和歌山市毛見)を「14日に爆破する」などと書き込み、業務を妨害した疑い。
 12日午後8時ごろに掲示板を見た男性が警察に通報。連絡を受けたマリーナシティは13日に各施設を点検し、異常がなかったことから通常通り営業した。 (6月14日、毎日新聞)


この図には、どこかで見覚えがある。そう、イスラム急進派によるテロ情報と、それに右往左往させられる警察、そして市民社会の構図である。イスラムと日本の「テロリスト」たちとの違いは、行為の背景に理論と組織があるかどうか、だけである。

ここで忘れてならないのは、テロリズムはアイデアであり、属性ではないということである。テロリストを一人残らず検挙したとしても、そこにアイデアが残っていれば、それに共感する人間にたやすく感染し得る。

秋葉原事件でもそうだった。犯人は少し前に起きた大量無差別殺人事件という「アイデア」に共感し、感染し、テロリストになった。そして彼がそのアイデアに共感するためには、閉塞感に覆われた社会状況が不可欠だった。のっぴきならぬ不満と怒りが身体と精神に充満していない限り、人はテロリストにはなり得ない。

力による「テロ撲滅運動」は、果てしのないイタチゴッコに他ならない。テロリストは、その温床となる社会的状況がある限り、増殖し続けるからである。また、力に頼ると、権力による市民の監視が強まるなどの副作用も強く、決して望ましい対応法ではない。

テロリズムを抑えようと思うなら、「アイデア」がもはや共感を呼ばぬよう、古くさく感じられるよう、温床となる社会状況を改善することこそが必要であり、近道である。

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