Sunday, January 25, 2015

「テロとの戦い」の原理的かつ根本的な落とし穴

「イスラム国」による人質事件に際し、去年9月にメルマガに書いた原稿を転載します。

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13年前に最初にボタンをかけ間違ったことの負の影響の甚大さについて、改めて考えています。

 米国による、いわゆる「テロとの闘い War on Terrorism」が本格的に始まったのは、2001年9月11日の事件がきっかけです。当時のブッシュ政権はアメリカに対するテロ攻撃への報復及び「テロリストの根絶」を目標に掲げ、アフガニスタンへの侵攻を開始しました。日本の小泉政権も、すぐさまそれを支持しました。

 僕は当時もニューヨークに住んでいましたので、あの911事件にはとてつもない衝撃を受けました。炭疽菌事件もあったりして、街を歩くのにも現実的な身の危険を感じました。だから世論調査でアメリカ国民の約90%がアフガニスタン攻撃を支持したと知ったときには、感情的にはその気持ちを理解しました。

 しかし、アフガニスタンに米軍を侵攻させてテロリストを撲滅するという発想には、原理的かつ根本的な落とし穴があると直感し、侵攻には当初から大反対でした。

 その「原理的かつ根本的な落とし穴」って、なんだか分かりますか?

 テロリストとは「人間の種類」「属性」ではない、ということです。また、テロリズムとはコンセプト(アイデア)である、ということです。

 まだ分かりにくいでしょうか?

 つまりこういうことです。

 生まれながらにテロリストである人間はいません。テロリストと呼ばれる人たちは、最初は誰しも普通の赤ちゃんとして生まれるわけですが(当たり前ですね?)、その後育った環境や出会った人々や出来事、思想などの影響で、人生のどこかでテロリストになることを決断します。ということは、テロリズムというコンセプトが、現状を打破したり敵に報復したりする上で魅力的なソリューションに見えるような環境が継続する限り、テロリストは無限大に増殖しうるのです。

 これが例えば「この世からゴキブリを根絶する」というのであれば、実際には難しいでしょうけど、原理的には実現の可能性はあります。ゴキブリを片っ端から殺していけばいいんですから。そしてゴキブリがこの世から一匹もいなくなれば、たぶんその後ゴキブリが再び復活することはありません。なぜなら、カブトムシがいきなり誰かに影響されてゴキブリになったりすることはないからです。

 しかし「テロリスト」は違います。たとえテロリストが皆殺しに合い、一時的にこの世から一人もいなくなったとしても、「テロリズム」というコンセプトが存在し、それに共感する人がいる限り、再びテロリストが生まれる可能性は残ります。たぶんアメリカ人や日本人の多くはテロリストをゴキブリのような存在としてイメージし、徹底的に殺せばいなくなるものだと今でも考えていると思いますが、そういうイメージそのものが致命的に誤っているのです。

 アメリカは、アフガニスタンやイラクに侵攻して武力でテロリストを一掃しようとしました。しかし、13年間にもわたる「テロとの闘い」の末に、テロリズムは根絶できたのでしょうか?

 イスラム国の台頭にみられるように、実際に起きていることは真逆に思えます。

 アフガニスタンとイラクにおける戦争で亡くなった一般市民の数は、約17万人と推定されています。17万人と一口にいいますけど、その一人ひとりに人生があり、家族や友人がいたことを想像すると、めまいで倒れそうになります。

 米軍は、人を殺した数だけ、街を破壊した分だけ、テロリスト予備軍を増やしているのではないでしょうか。そして、肉親や友人を殺された人々がアメリカに対する報復を誓い、あるいは同胞による報復行動に共感することで、イスラム国が力を得てきているのではないでしょうか。

 この上イラクやシリアを空爆してさらなる犠牲者を出しても、問題は悪化するだけだと思います。日本も集団的自衛権の行使を容認すれば、アメリカのテロリスト撲滅作戦にフルに参加する可能性も充分に考えられますが、そうなったら本当に愚かで悲しいことだと思います。

12 comments:

  1. Anonymous11:01 PM

    わかるけど、同意はできません。
    それは「犯罪を取り締まっても犯罪は無くならないから警察は不要」ということ。
    アメリカのやり方が間違ってたとは思いますが、
    しかし既になってしまった現状に対して「日本がどう貢献すべきか」ではなく「日本だけが被害に合わない方法」を考えるのもまた悲しいこととは思いませんか。

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  2. 「アメリカのやり方が間違ってた」のなら、別のアプローチをすべきでしょう。この13年間で「テロとの戦い」が逆効果であったことはすでに証明されてしまったんですよ。その逆効果に日本まで手を貸す意味が全くわかりません。

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  3. Anonymous11:58 PM

    あなたの意見に賛成です。
    40年くらい前、日本の若者にも世界を冒険してまわる人たちがいましたが、当時は今のように日本人が人質に取られることはなかったと思います。
    確実に、世界は危険になってきているように思います。

    むろん、私もテロは容認できませんが、無実の市民を空爆で殺すアメリカのようなやり方をしていたら、報復の連鎖はどこまでも続くことでしょう。
    日本はアメリカのお先棒をかつぐのではなく、独自の平和外交をしてほしいです。

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  4. Anonymous12:21 AM

    「テロリズム」は存在のありかたとして 「民族主義」や「共産主義」あるいは「プロテスタンティズム」や"キリスト教そのもの" と似ているのではないか、ということでしょうか?

    だとすると、世界史を振り返ると「力での対処」は逆効果でしかなさそうですね。
    これが真だとすると、次に、
    「力での対処」の(「テロリズム」に対抗する側の国家内での)副作用がどこまで及べば国家指導層は諦めるのか?という疑問が湧いてきますね。

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  5. Anonymous7:25 PM

    わかるけど同意できませんな。筆者は甘い甘い、人類誕生以来歴史は一方では戦争の歴史であったことは厳然たる事実。。こちらは平和主義者であっても強盗は襲ってくる。現実の社会には理想の社会なんて存在しないんですよ。

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    1. Anonymous8:02 PM

      環境が人を善にも悪にもする。
      強盗犯はもうしょうがないのでとりあえず逮捕するとしても、同時に、強盗犯を生まないような社会環境の構築にこそ力をいれなければならない、というのが趣旨では?
      100%の達成は不可能でも、そうした取り組みの積み重ねが、より犯罪の少ない社会(世界)につながるのだと思います。

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  6. Anonymous8:56 PM

    同意します。
    『テロリズムというコンセプトが、現状を打破したり敵に報復したりする上で魅力的なソリューションに見えるような環境が継続する限り、テロリストは無限大に増殖しうるのです。』
    こういう環境を少なくする方法はお互いを理解して心のつながりを作る以外にないのではないでしょうか。
    僕自身、3.11以降初めて社会について知りたいと思い、50歳近くになって初めて原発の本もイスラムの本も読みました。自分がこれほど何も知らない事に愕然としました。これでは正しい判断などできるわけがありません。
    選挙に行っても正しい判断などできないと何となく思い、選挙に行かなかったこともあります。社会のしくみも歴史も宗教も何も知らなくても普通に生きていけるのが日本です。でもこれからは社会のしくみを知っていないときっと困ることになりそうです。
    アメリカの本とイスラムの本を二・三冊読めば、アメリカだけが正しい訳ではないし、イスラム教が危険な宗教ではないことぐらいすぐにわかります。
    まず、必要なのは正しい知識と歴史認識だとおもいます。
    日本人で議論できるだけの知識を持つ人はほんとに少ないのではないでしょうか。お互いを理解しあう。正しい知識を持つ。それでほとんど解決すると思います。

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  7. Anonymous11:43 PM

    理不尽な暴力から身を守るためにテロ殲滅に走ったアメリカ
    恨みの根を刈り取ることが出来なかった時点でアメリカは失敗した
    コレは規律の崩壊してるところからアフリカ・イスラム圏に武器を売り払ったから
    結論からすれば死の商人/横流しする軍人を潰すのが先決なんだけどこいつらは国の中枢に入り込んでるので駆除は難しい…アレな人に鉄砲もたせたらいけません

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  8. Anonymous1:02 PM

    同感です。
    武力対応は場当たり的な対処に過ぎません。問題の解決を望むならば、なぜ彼らはテロリストになったのか、ここもフォーカスすべき点です。
    全てがすぐさま理想通りにとはいきませんが、どこへ向かおうとしているのか、理想を掲げることは大切です。

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  9. 仰るとおり、テロリストを殺害して、テロを無くすことはできませんよね。むしろ、彼らを殉教者にして、次のテロを助長さえしているかもしれません。殉教者にしないように、思想の上できちんとイスラム国の思想を反駁しなければならないのではないかと思います。そうしないままの武力行使は、非常に危険と感じます。

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  10. Anonymous8:47 PM

    こちらでは、はじめまして。
    そもそも、911後のアメリカの行動は、「テロの根絶」を目指したものだったのでしょうか?「テロの根絶」を口実に、中東地域を不安定化させて軍需産業を儲けさせただけとしか、私には思われません。その結果、より恐ろしいテロリストを生み、自分たちでも統御できなくしてしまった。
    こんにち、欧米やロシア・中国・日本などのエスタブリッシュメントにとっては、テロは「適当に」存在してくれた方がありがたい存在ではないでしょうか。それは、イスラエルやアラブ諸国の支配層にとっても、同じかもしれません。その方が、国民を統御しやすいから。
    テロリズムを無くしていくにはどうしたら良いのか、そこを出発点・目標点とした政策は、ある程度見えています。たとえばテロリストを生み出す要因となっている貧困や、それに起因する社会の不安定化、憎悪と暴力の連鎖などを無くしていくことは、今の「先進国」の経済力をもってすれば、それほど難しいことではないはずです。しかし、ほとんどの政治家が、テロの根絶について真剣に考えていない。むしろ、それとは逆方向の政策を推し進め、その結果、テロをさらに拡大させ、凶悪化させている。
    そのメカニズムに、私たちは気付かなければならないと思います。

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  11. アメリカによるイラク空爆もシリア空爆も、巻き込まれた一般市民にはテロ以外の何物でもないでしょう。
    原因の構造は比較的単純だと思います。要するに利権が原因でしょう。イラクへ米爆撃機が飛び立った普天間飛行場を辺野古沖へ移す計画も、米軍はさほど乗り気ではないという声もあります。むしろ、日本国内の建築関連業界と保守議員たちとの利権が世界最大のサンゴ礁を破壊しつつあるのです。
     中東でもアフリカでも、テロリストに武器の供与を止めれば、とりあえずテロは減ります。でも、武器を生産販売する業界では、それは迷惑です。
     国連が本当に機能しているのなら、そういう根本的な解決策から議論してもらいたいものですが、無理でしょうね。

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