Monday, June 11, 2012

政治と感情

時事通信「死にたいなら自分で死ね」-松井大阪知事・大阪無差別殺害
大阪府の松井一郎知事は11日、大阪・ミナミで男女2人が無差別に殺害された事件で逮捕された容疑者について、「死にたい言うんやったら自分で死ね。自分で人を巻き込まずに自己完結してほしいですね。どうしても行政の支援も受けずにこの世からいなくなりたいなら止めようがない」と語った。府庁内で記者団の質問に答えた。容疑者は大阪府警の調べに対し、「人を殺してしまえば死刑になると思ってやった」などと供述しているという。(2012/06/11-13:46)
http://bit.ly/Leyyqe


松井氏の橋下・石原・片山化現象…。こういう感情を煽るような発言は、必ず一般受けするんですよ。でも、特に公人が言っちゃマズいです。

だって、この調子で政治家たちが感情を煽る発言で人気取りを始めたら、いったいどうなっちゃうんだよ、この社会。

「他人を巻き添えにしないで一人で死ねよ」と言いたくなるのは、普通の感情。でも、そこで「ちょっと待てよ」と立ち止まって、「なぜ彼はそんな行動に出たのだろう?」と考えるのが理性ある大人でしょう。そうしたら「一人で死ねよ」とは簡単には言えなくなるはず。ましてや政治家なら。

岩波の『世界』7月号にも書いたんですが、橋下氏は「民主主義は感情統治」だと発言しています。人々の感情を統治するためにこそ、感情を煽る言葉を意図的に発しているフシがあるんですね。松井知事は橋下氏の一番近くにいる人物ですから、そういう橋下氏のやり口を取り入れたんじゃないか。

「ああ、政治的に正しい冷静な言葉よりも、政治的に正しくない感情的な言葉の方が人気につながるんだ」と、松井氏に限らず、さまざまな政治家たちが模倣し始めているような気がする。それは禁断の果実ですよ、政治家のみなさん。

まあ、政治的に正しいことを地道にやっても評価されるのに時間がかかる一方で、政治的に正しくない放言をすれば一瞬で人気が高まっちゃうのなら、後者に頼りたくなるのも人情。要は、有権者が放言に対して厳しい態度をとらないとダメなんだよね。

映画も大ヒットだけを狙うなら、観客の感情移入のし易さを最優先して作ればいいんですよ。でも、感情移入のし易い映画が優れているかといえば、逆の方が多い。それは最近のハリウッド映画とか観れば分かるでしょう。

政治的に正しくない放言で人気を取るような行為は、政治家にとってはドラッグのようなものだと思う。一度成功するとやめられない。そのときは快感が得られるし。でもその先に待っているのは衆愚政治。退廃ですよ。それ以外にはありません。

ところで、橋下氏や石原氏、片山氏(そして今回の松井氏)ら煽動的な政治家が使う感情は「怒り」です。これが今の社会で効果的な原因は、怒りが必ずしも悪い感情ではないとされているからなんですね。だって、「不正に対してもっと怒った方がいい」などと平気で言ったりするでしょう。でも怒っちゃダメなんです。

いや、僕も修行が足りないのでついつい怒っちゃうし、「怒っちゃダメだ」というのも怒りなのでやめた方がいいわけですが、まずは「怒りには百害あって一利なし」という事実をよーく認識する必要があるんですね。その認識がないと、怒りを避けることは不可能です。

といっても、これはスマナサーラ長老の受け売りです。そして元々はブッダが言われたことなんですね。ブッダは人間の三大煩悩として「怒り」「貪り」「無智」を挙げました。そのくらい怒りは有害だと考えていたんですね。詳しくは長老の著書等をお読み下さい。http://t.co/cPftwdZa

僕はいわゆる仏教徒ではないんですが、ブッダの教えから学ぶことは非常に多いと思います。ちなみに、日本の仏教はインドから中国や朝鮮半島を経由して輸入された上に日本化されたものなので、ブッダから離れてしまった部分が多くて残念です。

なお、「どんなときにも怒るのはよくない」というブッダの教えは、日本社会だけでなく、たぶんあらゆる社会において異端の思想であり、普通は人々は「自分には怒る権利がある。怒るのは当たり前」と考えているので、たぶん簡単には飲み込めないと思います。これが最大の障壁ですね、たぶん。

ーー
以上、ツイッターでの連投を再構成しました。

7 comments:

  1. 「俺俺」の小説家の星野智幸さんはブログで日本での死刑制度の高い支持率も含め”その底にあるのは、象徴的に言えば、「人を殺したい欲望」”とふみこんでいます。http://hoshinot.asablo.jp/blog/

    「怒り」の先にはこの欲望が容疑者以外に、松井知事にも、彼の発言を支持する人たちに無意識にせよあるのではないでしょうか!?私たちは、おぞましい悪夢を生きている、、、、

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  2. ガイドヘルパー講座を調べていて、偶然「精神」の公式サイトにたどり着きました。

    映画、ぜひ観たいです。

    DVDが発売されているようですが、不定期でも映画館上映は無いのでしょうか?
    当方 大阪なのですがテアトル梅田あたりでは上映もありそうだと期待しています。

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  3. bebeさん
    ご興味、ありがとうございます。劇場での公開は09年に終了したので、しばらくないかもしれません。現在のところ、未定です。上映される場合には、このブログやツイッターなどで告知させていただきます。よろしくお願いします。

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  4. 残念です。
    機会がありましたら ぜひ劇場で観たいと思います。

    待ちきれないので Amazon にてDVD購入しました。
    楽しみです。

    それはさておき。気になったことが・・・

    DVDの中古を出品している方がいるのですが
    50000円という値段をつけて出品している輩がいることは
    著作権はじめ 公正取引の面からも害のある行為だと
    怒りを感じます。

    まぁ 現在新品の商品があるので、50000円で買う人など実際にはいないでしょうが。。。

    DVDを観ましたら また感想などもコメントいたします。

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  5. 想田さんがスマナサーラ長老の著書を読まれている事、仏教の思想に共鳴している事、腑に落ちた気がします。想田監督の観察映画と言う手法は仏教の観照、ヴィパッサナー瞑想のようだなぁと常々思っていたからです。何か嬉しくてコメントしてしまいました。すみません。
    新作の演劇、観に行きます。楽しみです。

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  6. jamさん、嬉しいコメント、ありがとうございます。

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