井上都紀の初長編映画
『不惑のアダージョ』を観た。09年のゆうばり映画祭以来、2度目。
神に身を捧げて来た修道女が、処女のまま更年期を迎え、自らの生き方に疑問を持つと同時に性に目覚めてしまうという、文章にすると下世話にも聞こえ兼ねない、そして実際にはもっともっと複雑な物語なのであるが、これが極めて上品かつ格調高く描かれている。
その最も大きな理由は、女性なら誰もが通り過ぎるであろう困難なライフ・ステージを、井上が正面から真摯に描こうとした、その姿勢にある。しかし、それを体現するための映画的技術ーーー例えば主人公を演じるミュージシャンの柴草玲の、抑制されているのに表情豊かな演技であるとか、彼女が奏でる迫力ある音楽であるとか、自然光をうまく使った大森洋介の美しいカメラワークであるとか、井上による人物配置の巧みさであるとか、そのようなものが合わさって初めて、可能になったといえる。欠点もあるにはあるけれども、初の長編映画とは思えない完成度なのである。 少なくとも、若さとか勢いだけでは決して到達できない地点にいる。
こういう優れた作品が未だに劇場公開されず、お蔵入りに近い状態であることが、惜しまれる。映画界は、せっかく出て来た才能を応援しない余裕などあるのだろうか。
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