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Tuesday, March 10, 2009
マイアミにて In Miami
人間、活発に動き続けていると、かえって自分や世界のことが分からなくなるものである。立ち止まって静かに内省的になる時間は、動く時間と同じくらい重要だなあと思う。
マイアミ映画祭は、立ち止まってゆっくり考える時間になりつつある。というのも、ここのところ動き通しで自分がどこへ向かおうとしているのか、何が何だか分からなくなりかけ、息切れしていたところに、北米というよりもラテンアメリカに近いゆったりとした時間が流れるマイアミで、ビーチに面したホテルに泊まることになり、ガツガツ映画を観たりプロモーションに精を出したりするよりも、ここはぼんやりと海でも眺め、さざ波に耳をそばだてている方がよほど有益であると決め込んだからである。
すると、この前まで努力して読もうとしてもなぜか読めなかった本に、自然に手が伸びる。そして、乾いた砂に水がすっと滲み込んでいくように、体と心の中に浸透していくのであった。
一冊は、この前鼎談させていただいた、ライムスターの宇多丸さんのお父さん・石川信義さんの本「心病める人たち ー 開かれた精神医療へ」(岩波新書)。精神科医の石川氏が、閉鎖病棟中心の惨憺たる精神病院に見切りをつけ、自ら開放病棟のみの三枚橋病院を創設し、患者たちと共に闘って来られた半生を、単刀直入な熱い言葉で、文字を紙に叩き付けるように綴っておられる。これにすこぶる感銘を受けた。石川先生にぜひお会いしたいと思ったし、こらーるの山本先生と対談などしていただいたら、どんなに面白いだろうと思った。何とか実現できないかな。
もう一冊は、村上春樹「ノルウェイの森」(講談社文庫)。この本が出版され話題になった頃、僕も一応読んだんだけど、その頃はピンともカンとも来なかった。ところが最近、『精神』を観て同書を始めとする村上作品を思い出したという人が数人現れたので、これはもしやと思って文庫本を手にしたのであった。そしたら、まだ途中だけれど、これが何とも面白い!なぜ大学時代の僕には、この魅力が分からなかったんだろう。村上作品は自分には合わないと決め込んでいた自分が恥ずかしい。そして確かに、「ノルウェイの森」の世界は、『精神』で描くことになった世界と何らかの関係があるように思えた。
それにしても、昨夜の『精神』の上映は、ちょっとハラハラした。上映時間(夜8時半)になっても上映技師が現れず、やっと現れても何かのトラブルで映像が流れず、45分間くらい上映が遅延した。やっと始まったと思ったら、絵は緑がかっていて暗過ぎるし、音声はボリュームが大きい部分がひずんでしまい不快な音を出す。上映しながらいろいろいじってもらったが、全然直らない。ストレスだった。特に、帰りの時間を気にしてか、不快な音に耐えられないのか、かなり大勢のお客さんが途中で帰ってしまったので、しばらくはトラウマになりそう…。というか、昨夜は夢に出て来た。映画というのは、実は本当にデリケートなもので、最後の最後にそれまでの苦労が水の泡になってしまいうるのだ。
それでも上映後の質疑応答まで残ってくれたお客さんは、いつものように熱かった!それに救われた。
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